マインド亀

カラオケ行こ!のマインド亀のレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.5
思春期ってめんどくさいよね
ヤクザだってめんどくさい
そんなふたりが出会ったら…

●山下敦弘監督って、この青春の移ろいやすい繊細な感情の時期を描くと本当に一流ですよね。私の大好きな『天然コケッコー』では、夏帆が少女から大人に向けて成長していく姿を繊細に描き、『もらとりあむタマ子』では自堕落な生活でダラダラもがき続ける前田敦子の青春の終わりの姿を描いて、そのどれもが余白とオフビートな笑いとともに見事な映画に昇華されていました。
本作では期待の新星、齋藤潤さん演じる男子中学生、岡聡実くんの思春期真っ只中を描いており、やっぱり大人になりつつある役者の今しかできない演技を本当に上手に抽出しています。最後の変声期に差し掛かった必死のカラオケなんて、本当に「今だけ」のリアルですよね。

●原作は未読ですので今度読んでみようと思うのですが、漫画原作の映像化作品は色々と難しい面があるものの、各方面から絶賛ですよね。何と言っても「思春期特有の男子中学生の可笑しみ」が無駄に「笑わせよう」と強調されたコメディではなく、本当にリアルで「あるある」な可笑しみになってて、この絶妙なセリフと間合いに笑いをこらえきれませんでした。もちろん、変なヤツだらけの極道の人達のおかしさも面白いんですけど、この中学生たちの身にしみるほどの厨二感に勝るものはないような気がします。
コーラス部の女子生徒の、男子生徒に比べて母性が際立つ明らかな大人っぽさも「あるある」だし、何と言ってもコーラス部と部長に愛着がありまくりの和田くん役の後聖人さんがめちゃくちゃ良すぎる。というか彼がいいとこ全部持ってってるし、映画終わってから結局記憶に残るのが彼のことばっか(笑)いや本当に今後が楽しみな役者さんですよ。「やらし〜!学校で!やらし〜!!!」は、ちょっとツボに入りすぎて、なんかもうこのセリフしか残ってなかったりします。
あとはたった一人の映画部部員の井澤徹さん演じる栗山くんと聡実くんの映画を見ながらのやり取りは、聡実くんが「愛とはなにか」「ヤクザと付き合っていていいのか」という家族にも話せない、危うい思春期の心情を映画に照らし合わせて唯一吐露する重要なパートでした。いやあ、中学にあんな部活あったら絶対に入り浸っていたでしょうね。VHS、やっぱり絶滅しそうなくらい古くて、それでいて権威的になりすぎない絶妙なメディアですよね。なんか古い道具屋に行けば微妙に手頃な価格でデッキが販売されてるという。

●で、そのビデオデッキと同じくオワコンになりかけているのが極道の世界で、同じ綾野剛主演の『ヤクザと家族』でもそこは描かれています。しかしながらリアルなことを言えば、極道や暴力団はなくなりかけてるけども、半グレやアングラでの窃盗集団や買春組織や違法ビジネスなどシノギは細分化され表に出てこなくなり、もっとわかりにくい犯罪組織となって暗躍しているのが現実なのではないでしょうか。一方で本作でのヤクザ屋さんたちは、再開発とともにキレイにいなくなってしまい、まるで妖精さんだったかように、「本当に実在したの?」というようなバランスの存在になりかけていました。「でもやっぱり夢じゃなかったんだ…」という微妙なバランスですね。
おそらく本作では反社と中学生の戯れ合いという、現代ではコンプライアンス的に批判されるべき内容にに対して、事前の議論をたくさんしたに違いありません。聡実くんが成田狂児にベッタリにならないような絶妙なバランスを探っていったのでしょう。ちゃんと「小指」の一件や、カラオケルームで「おんどりゃあ!」と飛びつきかかられる一件を見せて、ヤクザの暴力性や、ヤクザとのカラオケの怖さについて、聡実くんが、「やっぱりついて行っちゃだめなんだ」と適度に一枚のバリヤーをはらせるような絶妙な脚本でした。
それでも最後に聡実くんがヤクザのテリトリーに突入してタンカを切るところに、ラストのカタルシスがあるんですね。
ただ、問題はエンドロール後のポスクレシーンかなぁと思います。おそらく何年後かの続編につなげる狙いなんでしょうけど、本作一作のみの単品として観た時に、要らないかなあと思いました。だって、いくらなんでも、成長した聡実くんが反社と付き合い続けるのは、ちょっと生々しいし、アレかなぁと思いますしね。まだ私は現作も、原作の続編も読んでないので言えることだとは思いますが。

●それでも、やっぱり続編作って欲しいなあと思えるんですよね。そしてヒットしてるから、多分大学生くらいの齋藤潤さんで作られるんじゃないかなぁと思いますし、それなら観てみたい気持ちもありますしね。ヤクザに対するリアリティの無さを保ちつつ、それでも観客がヤクザに憧れを抱かないようなバランスのつくりにはしてくれることでしょう。その頃はたった数年後ですけども、今とはまた全然違うコンプライアンスの行き届いた社会になってそうですしね。でも、今しか見られない聡実くんのこのきらめき(と和田くんのめんどくさ味)を是非堪能して欲しい一作です!
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