このレビューはネタバレを含みます
原作読了済み。
漫画のある種の趣、主人公の独白は削られているけど、これはこれで素晴らしくいい手触りの実写化になっているように思う。
主人公の彼の佇まいや声や表情が全てのバランスを完璧に近く保たせていて、この抜擢こそ最高のファインプレーだったのではなかろうか。
狂児の配役も外さなかったことで作品性だけはほとんど成立していて、あとは遊ぶだけと言ってもよさそうな、父、ヤクザたち、組長などが良い味を出している(女教師だけあまりいい配役に思えなかったけど…)。
あと曲選がやはり良いよね。中学合唱部の部長が、ヤクザに囲まれたスナックで魂の「紅」熱唱したら、もうそれだけでおもろいもの。
まあとまれ、原作のこの物語とも言えないような物語の、ストーリーテリングの手管がやはり素晴らしすぎるなと再認識。
印象的な商店街や屋上、映画見る部活部屋、ケバい傘など、カットや小道具もところどころで何となく光の使い方とか、ノスタルジックかつ印象的で良かった。映像にした利点だなぁなど。
あとは狂児と聡実くんのやりとりが明からさますぎて面白いし楽しい(けして同性愛的な意味合いではなく)。初めての彼氏彼女かよ!みたいなあるある掛け合いをこの謎の関係性のラリーでやらせることで新鮮に見せるセンス…脱帽です。
学校生活、部活、卒業、声変わり、平成娯楽の王道カラオケ、80'~00'年代ポップス、巻き戻せないビデオデッキ、廃れていく商店街・スナック・あるいはヤクザ…。いろんなモチーフの中に、一過性というか、後戻れなさの哀愁があるから、この本来突拍子もないギャグは心地よいラインで成り立ってるんだよなあ。
"ありえない"より先に"終わらないで"と思わされる優しい世界。一見出オチっぽいけどその実つくりはすごく巧妙。
良い映画、もとい良いマンガです。