このレビューはネタバレを含みます
途中からある種のご都合主義に向かい始めたのを感じてしまった。
それまでの境遇を考えたときに若葉竜也だけ特別であれたことの説得力を感じず、また若葉竜也側からしても相当の覚悟が無ければこの行動につながらなかったはず。何がお互いをそう感じさせたのかの部分はかなりダイジェストで省略されてしまった印象。
ただ、そこを分厚くすると本筋から逸れるので、バランスとしてはこれが精一杯なのだろうけど、であれば若葉竜也の役が担う意味を強くしすぎだと思う。
いっそ市子のモノローグなど入れずに、その本心はまったく見せないまま終わらせた方が納得できた。あのモノローグは若葉竜也(と市子本人)を救うためのものでしかなく、装置的な処置だったと感じる。
母親は見ず知らずの恋人に何年も経った過去の家族事情ペラペラ話すだろうか。市子は北をどのように殺したのだろうか。
おそらく市子と同等には思い悩んだであろう母親の人生の苦難や頑なさを、一瞬で瓦解させるほどの若葉竜也の凄みはなんだったのか。猜疑心に侵されつつある北をどのような手口で証拠を残さず自殺志願者と一緒に始末できたのか。
話が動く肝と言っても良い、映像としてこそ見たかったポイントが、かなり大胆に省略されてるのは落胆が大きかった。
序盤の引きは強いけど、明かされるほど次のタネに期待が上積みされていくような構成で、しかし核心はちゃんとは見せず、最後までそれが続くので引きが残って解放された気がしない。
北くんの悪いやつではないはずなのに応援したくなくなる人間的ないやらしさみたいなところはキャラとして気持ち悪くてすごく良かった。一方の若葉竜也役はつるっとしたマネキンみたいな善人でとっかかりもなく面白みがガクッと減った要因になった。素性を詮索し合わないという合意から推察するに、彼もまた実家や過去になにかしら抱えるものがあったのだろうが…。
杉咲花、中村ゆりあたりの演技が素晴らしくて成立してるように感じるけど、物語として推せるかというとなかなか想像を超えなかった。
