シャチ状球体

神田川のふたりのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

神田川のふたり(2021年製作の映画)
3.0
いまおかしんじ版『ハルフウェイ』的な青春ラブストーリー。

途中までワンカットである程度役者のアドリブが入っており、どこにでもいそうな高校生達のどうで……日常的な会話風景が映画の大部分を占めている。

そんなこんなでリアリティを追求しているのかと思いきや、突然コントのように何もない空間にお店が存在する体で二人が演技をしてたり、真面目に考えられたとは思えない演出が何度か登場。
自販機でジュースか何かを買うシーンでパニック映画並みにカメラが揺れる『ハルフウェイ』が名作だとは思わないけど、高校生同士のどこに着地するわけでもない目的のない会話が世界観の説得力に繋がるはずなのに、この映画はわざわざ露骨なギャグを入れて雰囲気を壊してしまっているのが惜しい。
あと、二人が自転車で下校しながらする会話が、身の上話じゃなくて川を泳いでる魚とか景観とか通学の話ばかりなのがキツイ。これ全部、話すことがない時に時間稼ぎで選ぶ話題のような……。

"要救出窃盗お団子おじさん"は不自然過ぎて逆に居そうだと思った(白石晃士の『オカルト』に出てくる地獄だぞおじさんみたいなリアリティ)のと、主演の二人が台詞を間違えてもシーンが続行したり時々素が出てるのとか、ヘリの音で台詞がかき消されたりするのはこの演出手法の結果としては一応成功していると思う。大人に作られた理想的な青春じゃなくて、その場にいる間は気付けない等身大の高校生同士のドラマになってはいる。
まあ、おじさんのシーンは長過ぎて完全にストーリーが一時停止しているので120%尺稼ぎです。

これは他の映画でも思ったことだけど、監督は個人としてのキャラクターにあまり興味がないんだと思う。だから全員個性が薄くて、かといってキャラ付けされているわけでもないので、社会の様々な規範を無意識の内に従順に守っているある多数派の一般市民の生活を覗き見しているような気分になってくる。

同監督の過去作のように恋愛に関するシーンになると"男性のまなざし"が全開になるのが最大の欠点。ここら辺を改善すれば今泉力哉映画と同じくらいのクオリティにはなり得るはず。野党議員を揶揄するシーンとかは擁護できません。

ラストシーンは全体主義的かつ恋愛至上主義で……はい。(終わりの鐘が鳴る音)
シャチ状球体

シャチ状球体