マインド亀

イコライザー THE FINALのマインド亀のレビュー・感想・評価

イコライザー THE FINAL(2023年製作の映画)
4.0
寅さん・ブギーマン・マッコールさん!旅情プログラムピクチャーとホラームービーに最も接近したシリーズ最高傑作!

●いやぁ〜!怖かったですねえ!マッコールさんのスラッシャーホラームービー!
大人気私刑執行人マッコールさんが悪人どもを完全抹消するバイオレンスアクション3作目。今作は、とある人助けをきっかけにたどり着いた旅路の果てに、アマルフィの美しい架空の街で繰り広げられるジャッロばりの殺戮が繰り広げられます。
極限まで技を極めた殺しの技ははもはや芸術の域に近く、そしてなおかつコンマ何秒の世界で時間短縮を狙うトップアスリートの域にも達しています。それをだれに見せるでもなく一人で完結しているあたり、なかなかにマッコールさんの強迫性障害的な狂気と闇を感じざるをえません。
それは近作で近いなあと思ったのは、『カード・カウンター』のオスカー・アイザック。彼が必ずモーテルの家具を白い布で包むように、マッコールさんも必ず飲食店のカトラリーの下にナプキンをひくなど、潔癖なこだわりを見せるのですが、共通するのはやはり殺人の経験がボディブローのように自分の精神を蝕んでいること、また不眠症になっていることなどで、ひょっとしたらマッコールさんはポール・シュレイダーバースの住人なのではないかと思ってしまうのです。

●で、今作は、訪れた街で起こるマフィアの悪行を成敗する、という話なのですが、私は原作TVシリーズの『シークレット・ハンター』を観ていないのであくまで想像ですが、おそらく原作TVシリーズでは毎話毎話市井の人々を救うべく悪人どもを懲らしめるフォーマットだと思われるので、本作こそそのフォーマットに近いのではないでしょうか。訪れた街で旅の風情を感じながら起こる騒動、それは寅さんシリーズのように何作でも作ることができるシリーズなのかもしれません。そこに寅さんで言う満男の成長というエピソードが絡むように、今作ではダコタ・ファニングの成長を見守るマッコールさんを観ることができます。なので、この作品を『FINAL』とせずに、次から次へと4、5と作品を作っていってほしいですね。

●で、それでもやっぱり怖いのは、悪人ども目線で、次から次へと追い詰められる殺戮シーンの数々。これも日本の作品で例えるなら必殺シリーズですが、殺られる悪人目線になるとほとんどホラームービーなんですよね。首ゴロンとか天井のガラスドォーンとか、闇から登場するマッコールさんとか、もうブギーマンとかのホラームービーのモンスターにしか見えないので、この陰惨なシーンでめちゃくちゃ笑ってしまいました。もう、そこには戦略的にどうやって殺すか、って視点は全く無く、どうやって恐ろしがらせて殺すか、ってことだけに専念して、物理的にどうやってそこから登場するんだよ!っていうところはもはや関係ない(笑)
這いつくばって逃げるラスボスの背後を相手が死ぬまで悠々と歩く姿は、「イット・フォローズ」のまるで「それ」かよ!って感じでめちゃくちゃ怖かったです(笑)つまり、罪の大きい悪党ほど長く長く苦しめて殺す。それでこそ観客の溜飲が下がるという作りの映画なんですね。

●さらに、単なる一人の人助けが、世界のテロ組織の壊滅につながって行くという、マッコールさん一人で世界を救うかもしれないと思わせるような世界的スケールにつながるのもなかなかに爽快。世界では複雑に絡み合う歴史的な怨恨や思想によって、一概に「悪」と決めつけることはなかなかできないことの方が多いのですが、地道に暮らす市井の人々を巻き込み、傷つけることは全てが「悪」、というここまで気持ちの良い勧善懲悪も近年では珍しいですね。ですがやはりこういう話はスッキリします。
あまりにも街の住人が、マッコールさんの所業については深く問うこともなく、「ちょっと興味がある」程度の関わり合いしか持たず、ギャングの全滅をすんなりと受け入れすぎな気もしますので、その存在感が非常に薄味なのですが、だからといって私刑や自警団を礼賛しているわけではありません。マッコールさんは自らの行動に罪の意識を感じ、どこか壊れ始めているのです。ヒーロー的に街の人々に崇められるシーンも全く無いのは、そういうことを踏まえて作られた証なのだと思いました。

●ともかく『FINAL』と銘打ってる以上、この作品を劇場で見逃す手はありません。是非次回作を作ってもらうためにも、劇場でご覧いただけたら、と思います!
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