猫脳髄

怪談生娘吸血魔の猫脳髄のレビュー・感想・評価

怪談生娘吸血魔(1960年製作の映画)
3.0
大蔵映画配給らしい怪邦題の変身ホラー。この作品にはやや不幸な来歴がある。イタリア公開版は105分、アメリカ公開版は87分となっており、Amazon Primeが配信するヴァージョンはおそらくアメリカ版と思われる(※1)。また、ジャケット画像に「マリオ・バーヴァ製作」と銘打っているが、正しくは"Mario Fava"である。あるプロデューサーの偽名とされ、もちろんかの巨匠は何も関与していない(※2)。

本作モティーフは、前年に製作されたジョルジュ・フランジュ「顔のない眼」の枠組みとまるでそっくりで、事故で美貌を損なった主人公に、マッドサイエンティストが独自の治療法を施そうというもの。フランジュは移植だったが、本作では血清と放射線を絡め、なんとそこに「ヒロシマ」への原爆投下が関わってくる(※3)。マッドサイエンティストが血清の影響で変身するというジキルとハイドのモティーフにも放射線による影響が色濃く出ており、興味深い。

ただ、冒頭に述べたとおり縮約版のため、例えば、主人公の背景や、日本人移民たちが登場し、変身した怪物を"Seddok"と呼んでいる、殺人シーンのいくつか―などが削られており、どうも取ってつけたようなギクシャクした仕上がりになっている。何度も撮影を重ねたであろう見事な変身シーンなど、これは完全版だともう少し評価が上がるかなと思われる。

※1 日本公開版がどのバージョンか不明。
※2 同時期にバーヴァは「血塗られた墓標」を製作している。アメリカで好評だったバーヴァにあやかろうとの魂胆だったかもしれない。
※3 マッドサイエンティストは原爆投下後の広島に8か月滞在したという設定。放射線が凶暴化に影響を及ぼすという設定は際どいが、実はゾンビものでは頻繁に用いられることは本作の限りではない。
猫脳髄

猫脳髄