緩やかに心を殺される作品
世間一般からみた「幸せな家庭」を築いている人間の心の闇を覗く。
医師として生きてきたこれまでの人生。
人々に慕われ感謝されてきた人生だった。
だが、心の中は空っぽだ。
孤独で、独り善がりで、実に空虚で哀れな人生である。
主人公の老人から生きている充足感を微塵も感じない。
思い出すのは青年期のことばかりで、完全に「今を生きている」感じがない。
生きた証はあっても何故か心は満たされない。
そして、死期が迫りくる。
初めて自分の人生の意味を振り返る。
自分と同じ道を歩もうとしている息子に何を伝えられるか…
虚無でいることに慣れてしまった老人の哀れな人生に本当に胸が締め付けられる…