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金の国 水の国のsomaddesignのレビュー・感想・評価

金の国 水の国(2023年製作の映画)
5.0
商業国家で豊かな砂漠の国・金の国と、豊富な自然資源に恵まれているが貧しい水の国。隣り合う国同士だが、些細なことから長年にわたりいがみ合う仲だった。ある日、かつての盟約のために互いに花嫁・花婿を差し出すことになるが、水の国は金の国の王女サーラの花婿に仔犬を、金の国は水の国の青年ナランバヤルに花嫁に仔猫を押し付けてしまう。両国の計略に巻き込まれたサーラとナランバヤルだったが、ふとしたキッカケで知り合い、互いに偽りの夫婦を演じることに。

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原作未読。岩本ナオの同名マンガの劇場用アニメ。渡辺こと乃監督は今作が劇場用長編デビュー作。「ちはやふる」「ノーゲーム・ノーライフ」などの人気作の演出を歴任。
ほっこりファンタジーラブコメかと思ったら、意外に重いポリティカル・サスペンスの側面もあって面白かった! いがみ合う両国だけど、互いに補い合わないと共倒れることは、王族や政治家より庶民の方が分かってる。

半紙を積むように様々な出来事が折り重なって多幸感溢れる結末を迎える。
安直なハッピーエンドじゃなくて、未来へ希望を託す結末が誠実で良かった。結末はもっとずっと先だし、なんならちゃんと結実するかも分からない。でも端緒は切った

浜辺美波も賀来賢人も芸達者。
ナランバヤルの賢さを終始聡明さとして演じてて、狡猾な計略家っぽさがなくていい。裏表のない好青年で、世の中を諦観しつつも未来に絶望してない。言葉の端々に気遣いと優しさが滲み出てる感も良かった。

サーラはおそらくあの世界では容姿端麗とはされない扱いなんだろうけど、朴訥としていながらも柔和で福々とした佇まい。見た目にも内なる魅力が滲み出る声の演技が素晴らしかった。
周囲に流されるままだった自分を振り払って、自ら未来を切り開こうとする強さ・思い切りもまたいい。積年の自分の弱さを振り切ろうとするようなグラデーションも印象的。
それにしても酒が強い理由や前フリがないまま、一見無謀な勝負に挑んでしまうので、色々と大丈夫な人なのか不安でもある。(自分が伏線を見落としたかもしれないけど)


クライマックスに向かうに連れて、ナランバヤルが命がけの策謀と戦うのに対して、サーラ側の推進力が「勘違い」ってどうにもバランス悪い。勘違い要素は一旦置いておいて、もっとサーラがあの大きな結末に寄与して欲しかったというか。ナランバヤルの聡明さを強調するためだろうけど、サーラがとにかく勘の鈍い・視野の狭い人物として描かれるのも気になった。よくいえば一途だけど、世間知らずの朴念仁にも見えちゃった。


9本目
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