ベルベー

金の国 水の国のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

金の国 水の国(2023年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

長文の悪口になるけど、簡単にまとめるとコンプラ映画ヅラしてコンプラ的に最悪なのが笑止千万、一昨日きやがれです。普通にめっちゃ嫌い。マジでストレス溜まった愚痴なんで気にしないでください。















まずどこから書こうか。「シン・エヴァンゲリオン」に実はハマりきれなかった話からか。自分でも色々理由を考えてたんだけど、近藤銀河さんの文章を読んでああこれ大きいなと思って。つまり「シンエヴァ」って家父長制の肯定だったんですよね。女は産めよ育てよ家事しろよ、知識労働は男がするから。ミサトさんみたいに男社会でキャリア積むなら女を捨てろよ仕事に命賭けろよ。

あー庵野さんが辿り着いた境地は結局そこだったのかって…失望というよりは悲しかった。分かり合えなかったことに。でも境遇も世代も違うから仕方ないよなって言い聞かせてた。自分も他人も傷つけてしまう、傷つけないと生きられない。自分の暴力性、性衝動、リビドー、タナトス。それらを憎んで、でも捨てられなくてそんな自分が嫌いで自己否定したいけど肯定もされたい、だから苦しむ庵野秀明に共感してたんだな私は。旧劇と「Q」が大好きな理由それだわ。シンジがマリのことを「胸の大きいいい女」と形容することを是としたのが、その方向でエヴァに別れを告げたのが理解できるけど納得したくなかったんだ。

でも「シンエヴァ」は卒業の儀式だったので耐えられた。だって同じ場所にはいつまでもいられないし、庵野さんは、シンジはそっちの道に行くのかじゃあ私はこっちの道行くよ。今まで楽しかったよ、いつかまたどこかで会おうぜって感じで。まあ庵野秀明との再会わりと早かったし、やっぱ道違うわって「シン・ウルトラマン」観て「シン・仮面ライダー」観てどんどん思うようになったんだけdそろそろ「金の国 水の国」の話する?

本当に腹立つんだけどさ、庵野秀明のことを多様性がない、何がセクハラか理解できないおじさんだって批判する一方で(私が言ったんじゃないもん、言ってた人がいたんだもん!)、この映画を「多様性への理解があってオススメ!」って言う人が少なくないことだよ。いやそういう人の声ってデカいから多いように見えてるだけかもしれなくて、実際この映画全然売れてないから世間の大多数は本作に見向きもしてないのかもしれないけど、どこが??本作のどこが多様性???

本作はふくよかな女の子でも幸せになれる!結婚して女の幸せを掴める!脱ルッキズム!で作り手が満足したのか、ファンタジー設定の推敲や映像としての面白さの追究をロクにしてないところがまず気に入らないんだけど。結婚こそ女の幸せっていう価値観に疑問を一切呈さないのが居心地悪くて仕方なかった。

だって、「A国とB国が相手国への嫌がらせの為に犬猫を送り合ったせいで云々」とまどろっこしくて面白くない設定をほじくり回しているけど、要は許嫁だよ。しかも争い合う二つの国の政略結婚。そこに2人の主人公は疑問を持たない。お互いの国の為なんだから当たり前!って感じ。

女主人公のサーラは男主人公のナランバヤルには決められた相手がいるんだ…と落ち込むけど、クライマックスでナランバヤルこそが二国間の政略結婚に選ばれた男だと知る。彼こそ国に定められた運命の結婚相手だったのだ!なら問題なし!国が決めた相手だからね!マッチングアプリで自分から出会うより安全で高尚ですね、良かったね!

本作で提示されるのは異性間の結婚とその後の出産育児こそ女性の幸せということ。いやそれ「も」幸せですよ。ただ、それ以外の幸せは提示されないそれが大問題。ナランバヤルの実家は子沢山。そこにサーヤは家族の理想を見る。エンドクレジットではダメ押しとばかりに二人の間に生まれ育った娘が登場して、イケメンの男の子にキャーキャー言ったりする。

絵に描いたようなポストフェミニズムで嘲笑ってしまった。男が知的労働する分、女は子作り!ハイ平等!サーラの姉はイケメンの愛人侍らせているでしょ?だからこの世界では女性にも遊ぶ権利があるってことだよハイ平等!なわけねえだろ。

脱ルッキズムを掲げているつもりの本作だが、物語を通して達成できたのは「ぽっちゃり系女子でもそこそこのイケメンと結婚できる!」だけである。サーラの相手のナランバヤルは普通にイケメン。声は賀来賢人だし。あとサーラも声は浜辺美波だから、作り手は本当にルッキズムに左右されない女性を描きたかったのか疑問が残りますね。

更に言うと、本作に登場するイケメンは皆味方です。国一番のイケメン俳優は思慮深くて性格も良くて善意で主人公を助けてくれる。味方してくれる学者もザ・マチズモなイケメン。対立するのは被害妄想逞しいジジイの王様と、ブサイクなオッサン官僚と、(敢えてこう書きます)オカマの族長。笑止千万。ルッキズム脱却どころじゃねえ!バリバリルッキズム!トランスヘイト映画とまで貶すのは流石に飛躍してるけど、でも異性愛のみを過剰に賛美して(敢えてこう書きます!)男色家を単なる悪役として消費してるから、そう称されても文句は言えないんじゃないですか。

じゃあ世の中のアニメ監督はそんなに倫理的に正しいのかいって言われたら、そうじゃないと思いますよ。宮﨑駿も押井守も庵野秀明も細田守も新海誠も長井龍雪も岡田麿里も山田尚子も、価値観のズレの大小や個人的な好き嫌いはあれど100%正しいと思える人はいない。強いて言えば自分の物の見方は山田尚子に一番近いかな、でも「正しい」わけではないな…って。私だって100%正しいわけではない。正しく在りたいけど完全は不可能なんだ。

だから倫理的などうこう抜きにして映画として評価しなきゃとも思ったけどさ、先に書いたとおりでメッセージ性!で作り手が満足してて映画的な面白さが見当たらないんですよ本作。エレベーターとエレベーターから見える風景がアニメーションとしてのピークなんだもん。「シンエヴァ」の価値観に共感できなくても、人類補完計画の真相やゲンドウとの最終対決にはワクワクさせられたけど、本作にそういうクリエイティブな面白さはない。「アラジン」一回観て三日あれば思いつくレベルのものしかない。

原作読んでないんだけど、この映画の内容と全く一緒なら、これが「このマンガがすごい!オンナ編1位」って悲しすぎるよ。オンナ編って。でも1位になったの2016年だからね。7年で社会の価値観を揺さぶる出来事は色々あったからね。それを反映してないなら怠慢極まるし、反映してこれなら、これ以上言えることは何もありません。バイバイ。
ベルベー

ベルベー