九月

灼熱の魂 デジタル・リマスター版の九月のレビュー・感想・評価

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とんでもない衝撃作。
内容は全く好きではないどころか、どうしてこんなストーリーを描くのかとさえ思ってしまうほどだったけれど、凄まじい脚本や映像に引き込まれた。
もう二度と観たくない作品でありながら、噂に違わぬ素晴らしさだった。

母の死をきっかけに、自分たちのルーツと向き合う双子の姉弟。謎めいた遺言の内容と、それを受け取る子どもたちの様子を見るに、どこか風変わりな母親で、親子関係も必ずしもうまくいっていたわけではないのではないかと感じた。
父親はとうに亡くしているのか、遺されたのはジャンヌとシモンだけのはずなのに、遺言には彼らの父と兄に宛てた手紙が入っており、探し出して渡して欲しいと託けられている。

冒頭のシーンだけではこの家族に何があったのか全く想像もつかない。プールサイドで俯く母ナワルが映されるシーンに不穏さを感じていたら、いつの間にか病院に運ばれていて、一体何が起こったのか、死因も分からないまま、また違うシーンへ。
場面転換が激しく、どんどん謎が増えるばかりだが、現在と複数の過去が入り混じり、時には目を背けたり早く終わって欲しいと思ったりしながらも、見守り続けた全ての出来事が少しずつ繋がっていく過程には感動した。

ナワル・マルワンの壮絶な人生は、かなり数奇なものだと感じたけれど、今もなお絶えない宗教や信仰、思想の違いによる内戦や紛争の悲劇が、そう遠くはない時代を通して描かれていた。
もはや愛する人との間に生まれた子ども(生き別れた息子)への愛しか彼女には残っていないように感じる時もあったけれど、強く逞しく生き延びてきたナワル。やっとの思いで祖国を離れ双子と一緒に暮らす中、そんな彼女が最後に知る真実も、子ども"たち"に遺したものも、どちらもあまりにも残酷すぎる。
鑑賞後、充実感に満たされながらも、気分は最悪だった。
九月

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