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エゴイストのmichiのネタバレレビュー・内容・結末

エゴイスト(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

俳優陣の演技は全員素晴らしかった。主演の二人は勿論、阿川佐和子さんの「ずっとここで暮らしてきた感」がすさまじくて。

ただストーリーの面では正直もやもやが残った。
浩輔は高収入の編集者、龍太は母親との二人暮らしで経済的に困窮しており、パーソナルトレーナーだけでは生活できずウリをやっている。
浩輔との恋人関係とウリを両立できない、割り切れないからと離れようとする龍太に対し、浩輔は毎月そう安くない金額の援助を約束し、関係の継続を図るのだけれど、はたから見ているとやっぱりどうしたって「ずっとこれを続けるのは難しいんじゃないか?」と思ってしまうような危うさがある。会うたびに高価なお土産を持たせたり、ハイブランドの洋服を与えたり、車を買ったり、それはすべて浩輔がやりたくてやっていることなのだけれど、あのプレゼントタイムが重なるたびに不均衡に拍車がかかるような感覚が強くなって、第三者でも気持ちが薄暗くなってくる。

この、「永遠には難しいだろうけど今はこれをやりたい、だってこの人を離したくないから」という感覚自体(テーマであるエゴと愛につながる部分でもある)はすごく切実なものだし、胸を打つのだけど、だからこそ「相手の死」という抗いようのない幕切れではなく、実際にこの生活が続けられないとなった時にふたりが何を話すのか、どうするのか、というところを見たかったという気持ちになってしまった。
(ただこれって二人が婚姻関係になれたら控除があったり同居できたりもう少し明るい選択肢が出てきたりしたよねって話でもあって、一概に浩輔のエゴだけが不均衡を生んでいるとも言えず、難しい)

龍太の死後、今度は龍太の母親を援助し始める浩輔が描かれており、途中で口座の残高を見たり一個千円の梨と安価な梨で悩んだりする描写が入って、ここでも「今の生活をずっと続けるのは難しい」と思わせてくるんだけど、母親も末期癌だったという展開で、またも天命で終わりが決まってしまうことになる。
浩輔の母親が若くして病死しているというバックグラウンドによって、浩輔の「母に尽くしたい気持ち」を龍太の母を通して消化しているという軸が通ってはいるのだけれど、でも結局この歪な関係に対して浩輔自身が答えを出す前に死が関係を分かつ構図になってしまっている。

「気持ちの面ではずっと続けていきたいのに、気持ちの面以外では続けば続くほど苦しい」ということってあると思っていて、こんなこと思いたくないけれど劇中で死が介入してきた時にどこか安心してしまう自分がいた。
もし龍太も龍太の母親も生きていて、浩輔がそこにいた時に、三人はどうなっていったのだろう、どうすることに決めたのだろうとどうしても思ってしまうし、
個人的にはそっちの未来を描いて欲しかった。
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