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映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)の都部のレビュー・感想・評価

3.6
ドラえもん映画の全ての過去作の履修を終えた私は最新作を見るべく劇場に足を運んだ──理想郷伝説の存在の真偽を巡る飛空譚から始まる物語はドラ映画ならではの浪漫の確保に成功しており、旧型の時空飛行艇タイムツェッペリンの機能説明は如何にもなレトロフューチャーで胸踊る。

これによる本題に入るまでの尺がやや長めなのは否定できないが、かと言って中弛みがある訳ではなく、三日月型の理想郷を追う 肩透かしが前提のパートとして処理されていくので問題とは感じない。この辺は後々に生きてくる要素がほぼないのは気になるけれど、作品としての純然な遊びの部分と考えれば恒例の時間である。

パラダピア到着後の物語は、ディストピア文学の王道をドラ方式でなぞる様な展開が続いていく。近未来技術として恵まれた自然と調和した島内設計は観客からしても魅力的に感じるもので、理想郷と呼ぶに相応しい機能が次々に紹介されていく──その折で、パラダピアの真相を思うと算数×体育のカリキュラムなどから闇が透けて見えるのは面白い。

井上麻里奈演じるマリンバの登場から物語は大きく動いて、画一的な優生思想教育と各々の個性を寵愛する為の自由思想の衝突は、子供向けに分かりやすく価値観の矯正のおぞましさを伝えられるに値する内容となっている。多様性の素晴らしさ──という点で身の回りの友人の肯定や自分の肯定を挟むのは今時ではある。その過程が結構ハード目の展開と共に語られるパートが面白かっただけに、黒幕との直接対峙があっさりだったのは本作の大きな不服の内の一つである。ドラえもん映画の問答部分としては適切な尺なので個人的な好みの問題。

終盤はドラえもんならではのスペクタクルな流れで非常に良かった──ユートピアを自称する都市をああした形で処理するのはエスプリが効いているし何より痛快だ。パーフェクト猫型ロボット:ソーニャの扱いはアリだがラスト中のラストは個人的に余韻を損ねる感じで嫌だった。
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