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そばかすの都部のレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
3.5
Aセクシャル/ロマンスを題材とした映画というのは、セクシャルマイノリティという文字並びから大衆がまず連想する『同性愛』を命題とした作品と比較すると未だに数は少なく、私個人も若干その毛があるということもあって公開前から大きな期待を寄せていた作品でした。

そしていざ蓋を開けてみれば、本作は良くも悪くも『セクシャルマイノリティ』の映画の初歩に類する作品に終始している印象で、この発展性や多様性に欠ける筆致は現代日本におけるAセクシャル/ロマンスの認知度に合わせたものであると考えると漠然とした物悲しさが残ります。

本作はとかく恋愛社会に生きる人間に囲まれた際の『気まずさ』を感じさせる展開が多く、鑑賞中はひたすらにいたたまれなさを至極勝手に感じていたのですが、そうした重重とした展開に対して佳純の振る舞いは良く言えばドライで卑近なものとして纏められていたので全体的に呑み込みやすい作品になっているように思います。

鑑賞してて心がチクチクした場面は色々ありましたが、一番キツかったのは妹にレズビアン呼ばわりされる下りかな……(性的少数派に対する雑な理解と剥き出しの感情を近親者に向けられる事に対するキツさ)。

これで客観的な視点からしても変わり者みたいな扱いだったらキレ案件なのですが、その点『ドライブ・マイ・カー』で存在感を発揮していた三浦透子の演技の妙がしっかりと活きています。

『どうして恋愛をしないのか?』『どうして人を好きにならないのか?』という当事者ではない外部からの疑問を切り口として、そこで生じる悪意のない擦れ違いや裏切りに対して葛藤する姿は先述した初歩の範疇ながら共感性の高いものとして順序立てて作られている。そういう属性の人間がたしかに存在していること/そんな風に当事者が抱える生きにくさのような物を現実と地続きのものとして明示していたかなと。

(しかしながらそう考えると『Aセクシャル』『Aロマンティック』の呼称が脚本上から省かれている意図は分からず、そうした細部の非現実性が作品としての真摯さを却って欠いているのではないかとも思えますかね)

結末に位置する小さな一歩に爽やかさを感じる一方で、しかし本当の意味での他者からの理解はまだまだ得られないという締めに気落ちする気持ちもあり、この題材で作品を製作することに意義があるとはいえそれ以上の踏み込んだ個人の結実を観たかった気持ちはやはり拭えない。
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