さんた

あの娘は知らないのさんたのレビュー・感想・評価

あの娘は知らない(2022年製作の映画)
3.6
どのシーンを切り取っても「絵になる」作品。どこを取っても写真集のような映画だった。
映像美的な意味合いでもそうだし、ストーリー的な意味合いでも。
前者であれば褒め言葉で、とにかく映像が綺麗。極端にキャッチーではあるけど、光や色の使い方が一般的に人間の好むとされるもの、という感じ。
海辺の町、花の色、美味しそうな匂いがしてきそうな食事。奈々(福地桃子)のきめ細かい肌の艶や、俊太郎(岡山天音)の"エモい"表情。本当にどれも美しい。
ただ後者の、ストーリー的な側面はかなり空っぽに近い。だから写真集みたいだな、で終わる。

俊太郎が亡くなった恋人の足跡を求めて中島荘に訪れて、数日間を奈々と過ごすんだけど、ふたりの行動原理がいまいちよくわからない。詩的な台詞でそれっぽく綺麗に仕立てました感。

その亡くなった恋人のことは名前が出てくる程度で、ふたりが近づく契機にはなれど、映像として一切出てこない。
それはそういう演出なのだろうけど、その故人の魅力が受け手には伝わってこないので得られるものが何もない。
あと30分くらい長く撮って、脚本をもっと肉付けしたら余韻も違うのになと思わざるを得なかった。

ただ、他の人のレビューにもあったけれども確かにいい意味で何も考えずに観られる。
美しい風景をぼんやり眺める、という時間の過ごし方を選択するなら、それにはとても良いと思う。

タイトルもあまり回収されない。
どういうことだったんだろう、がいろいろあるけれども、一夏の思い出を描くならこんな地味だけど非現実的で幻想的、なくらいでいいのかもしれない。
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