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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガンとジョディは、ハリウッドの大物映画プロデューサーで映画スタジオ「ミラマックス」の創始者ハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始める。しかし、調査を進めるうちに、なぜ被害者が声を上げられなかったか・事件や報道すらされなかったかを知ることになり……。

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ずっと噂されてたワインスタイン事件の映画化。事件を彼個人の悪事に矮小化されやしないか心配しつつ、どんな映画になるのか楽しみしてた。

Me too ムーブメントが広がる大きなきっかけとなったワインスタインのセクハラ問題。
そもそもワインスタインの女癖の悪さは半ば公然の秘密で、遠い日本のただの映画ファンの自分ですら知ってたレベル(それにしたってせいぜい浮気や口説き癖のことだと思ってた)。辣腕で知られ、強引なロビイングでアカデミー賞をかっさらう等…賛否あれど過酷なエンタメ業界でのし上がるのは、これくらいアクの強い人なのかもなぁ程度の認識だった。(もののけ姫北米上映に際して、45分も短縮を要求してきたワインスタインに抗議すべく鈴木敏夫プロデューサーが行ったエピソードは最高なので興味があればググって欲しい)

セクハラ・パワハラ・口封じの醜悪なコンポが今作のキモ。ワインスタイン個人を糾弾する以上に、権力者の横暴を黙殺する業界の空気っちゅーかシステムこそが真の敵。
性加害を糾弾するだけじゃなくて、暗黙の了解に風穴を開けるのが目的でもあるので、セクハラシーンは描かないバランス感覚。エンタメ化しない・消耗品にしない志の高さや良し。同じくワインスタイン自身すら描かない。彼自身を糾弾しても次のワインスタインが生まれるわけで、劇中映るワインスタインは彼自身じゃなく暗澹とした業界の掟のメタファーに見えた(同時にワインスタインに「あたしらの映画に映ることすら認めねえ!」って言ってるようで、ちょっと痛快でもある)


キャリー・マリガンのリンゴ食いシーン。歩きながら乱暴に齧り付く力強い姿と、知恵の実を投げ捨てて毅然と対峙しようとする決意に満ちた姿が印象的。
「プロミシング・ヤング・ウーマン」に続いて性加害と戦う女性役だけど、「プロミシング〜」が狂気じみた使命感に突き動かされた女性だったのに対して、今作だと怒りより職業倫理や被害者への寄り添う気持ちが動機になって見えたのも良かった。キャリー・マリガンが調査を通じて生き生きと変化していくのもまたいい。

ゾーイ・カザン演ずるジョディの淡々とした佇まいもまたプロっぽくて好き。ミーガンとのバディだけど、ベタベタしすぎない関係性が大人だし、緩やかだけど同じ憤りで繋がってる連帯感もまた熱かった。青い炎の方が温度が高いように、クールで理知的な振る舞いの奥に被害者へ寄り添う気持ちと世の理不尽に怒りと絶望を秘めてる感。

ちゃんと家庭や実生活を営む実在の女性として描くバランスも良くて、仕事のためにあらゆるものを犠牲にすることを是とする「名誉男性」的な女性像を排して、彼女達自身もまた社会の一員としての女性であることを思い出させてくれる。そしてそれはまた被害に遭った女性達もまたそうであったことを連想させる並列

劇中で描かれる通り、残念ながらワイススタイン自身はバッチリ刑事罰を受けるものの、ハラスメントと口封じを受容してしまう空気自体は解決されない。現実がそうだからしょうがないものの、周縁部を調べるほどにスッキリしない結末に思えちゃった。

余談)
2013年のアカデミー賞。司会のセス・マクファーレンが助演女優賞ノミネートの発表に際して「おめでとうございます。これであなた方はワインスタインを好きなフリしなくて良いですよ」とブラックなジョークを飛ばして、会場が爆笑する程度にハリウッドの共通認識だった。セスの横に立つエマ・ストーンの凍りついた笑顔と共に記憶したいワンシーン。
(のちに『テッド」で共演したジェシカ・バースが過去にワインスタインにセクハラを受けていたことを知り、大きな舞台でジョークに包んだ一矢を報いたかっと意図を説明)

ブラッド・ピットのPLAN B 製作なのも熱い。ワインスタインのセクハラ被害に抗議した数少ない人の一人としても有名で、当時付き合っていたグウィネス・パルトロウがワインスタインにセクハラされたことを知ってブチ切れたブラピが「また彼女を不快にさせるようなことがあったら、殺すからな」と猛抗議したのは有名な話。
その後ワインスタインとは和解したのか、2012年「ジャッキー・コーガン」ではワインスタイン・カンパニーの配給となる。が、ワインスタインと関わりたくなかった当時の妻アンジェリーナ・ジョリーは難色を示したとか。離婚の遠因になったとか、ならないとか。


6本目
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