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日本原 牛と人の大地のデニロのレビュー・感想・評価

日本原 牛と人の大地(2022年製作の映画)
3.5
予告篇に興味をそそられて。

岡山県の農家ヒデさんの話。

このヒデさんの耕作地は軍事演習所の中にある。戦前は、っていつの時代のことかよく分からぬようになってしまっているが、陸軍があった時代は陸軍の演習場で、太平洋戦争敗北後はアメリカ軍が接収し、自衛隊発足後は自衛隊の演習基地となっている。以前は数多くの農家が田畑を耕作していたのだが、いつしか国の代替地に移ったり、離農したりしていき、周囲はもはや農地ではなく雑木林、藪と化している。今やヒデさん1軒だけがその耕作地で農作物を作っている。。

何故か。先代の言い遺した言葉がある。ここは何百年も農地だった。軍事演習所なんかじゃないんだ。ここを守り抜いていつしか牛の放牧場にするんだ。

1969年。多くの市民、学生が、当地の農民による実弾演習反対運動を支援する。その中のひとりに岡山大学の医学部生がいた。彼は高校生の頃、学校に精神の病で学校に通えなくなる児童たちが大勢いることを知りその解決のために医学を目指した。そんな意識的な学生だ。大学に入学し、新左翼の一派の学生組織プロレタリア学生同盟の活動家になる。そして反戦平和運動に参加する。

そこで彼はその後義父義母となる夫婦と出会い、医者ではなく牛飼いになる。自衛隊と戦うためだ。

彼の妻となった早苗さんは笑顔で言う。学生さんはたくさん支援に来てくれたけれど、みんなすぐに帰っちゃうんですよ、でも、彼は居残って農業をやりたいと言った。母が捕まえとかなきゃだめよ、と。

主人公ヒデさんの背景は概ねそんなところなのだが、描かれているのは牛さんのお産や、搾乳や、肉牛の売買や、山の牛乳の販売や、草刈りや、入会地の次年度の場所の抽選や、老いていく姿です。作者の視点はそこにあります。作者は若い世代なのでヒデさんの若かりし頃の政治の時代を知ることもない。だから素直な気持ちで色々と問いかけている。

ヒデさんには学生時代のつらい思いがある。1969年11月佐藤訪米反対闘争に友人を誘い、その友人が機動隊との衝突で亡くなってしまう。50年経てもその時の気持ちは消え去らない。そんなことが滓のように残る世代なのかもしれない。当時の彼の学友へのインタビューにもそれが窺える。自分がそのまま運動を続けていたら1972年の山の中で殺されていたろう。

ヒデさんには息子さんが二人いて、長男は、葡萄農家をしながら昔ながらの活動家。二男はこころの病とかでぎこちない。兄さんのいた部屋にはとある党派の機関紙が貼ってあって、弟は、人も来るので刺激が強いからと、機関紙の上にいろいろな写真を貼って隠している。なかなかユーモラスなシーンです。

その二男がナレーションを担当しています。

2022年製作公開。撮影、監督黒部俊介。

映画館ストレンジャー まだ観てなかった!/もう一度観たい! 2022年邦画セレクション にて
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