秀ポン

スピリッツ・オブ・ジ・エアの秀ポンのレビュー・感想・評価

4.5
ミニマルな様を指して「削ぎ落とされた○○」と表現することに、いまいち納得がいってない。
削ぎ落とす、という引き算的な感覚ではなく、足し算的な感覚のほうが実感に近い。
例えば本作の冒頭の荒野の映像。
余分を削っていった結果あの映像になったというよりも、象徴的なオブジェクトを必要最小限だけ配置した結果ああなったというほうがそれっぽい。

以上の戯言はどうでも良いとして、好きな映画だった。

アレックスプロヤス監督の映画は

・ダークシティ……人生ベストレベルで超好き
・アイ、ロボット……普通
・ノウイング……微妙

って感じで、物によってハマったりハマらなかったりまちまち。
でもどの映画も奇妙で強い印象を残している。
(この3作の印象に関しては、過渡期のヌルッとしたちょい不気味CGと監督の世界観がハマったのも大きい気がする)

この映画も御多分に洩れず奇妙な映画で、彼の映画の中ではダークシティに近いと思った。
非現実的な世界の中で、謎の男が抽象的などこかへ向かおうとする。
ダークシティの場合にはそれは記憶の中にだけある海だった。この映画の場合にはそれは壁の向こうだった。
こっちはダークシティよりも更に抽象性が高く、なんかもう寓話みたいな様相。

赤い大地に青い空。越えられない壁。この土地から出られない兄妹。稀人。十字架。飛行機。
最高じゃん……。最高じゃん!

ロケーションやセット、そしてそれらの撮り方が超かっこいい!
冒頭の、荒野を行く男を、十字架や突っ立った廃車越しに地面近くから望遠で撮る映像、これだけで絶頂ものだった。

とにかくここじゃないどこかに行きたい。この普遍的な欲求がかっこよく抽象的に描かれている。自分だけじゃなく、大勢の人に刺さりそうだと思った。米津玄師とかのエモい感じのJpopに近い感覚。

嫌いな部分もあって、それは兄妹の描写だ。
妹も兄も、「今私は狂ってるぞおおお」みたいなわざとらしい演技がうるさかった。
具体的には妹のほぼ全てのシーンと、兄が風洞で羽の構造を検証するときに、熱狂に襲われて叫ぶように笑いながらクランクを回しまくるシーン。

でもそれを補って余りある、最高の雰囲気の映画だった。

・ポスターからしてかっこいい。
秀ポン

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