秀ポン

哀れなるものたちの秀ポンのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
今年の劇場一本目。

オチが、そこに着地するんかい!ってなってクソ面白かった。感動的な音楽と満足げなエマストーンの顔が余計面白くしてる。

最初はかなりつまんなかった。画面は魚眼っぽかったりねじれたりで見てて気持ち悪くなるし。白黒だし。
でもマークラファロと旅に出て、画面に色がついてからはかなり面白かった!
ヨルゴスランティモスの映画の中で1番好きだ。

彼女は男たちの間を転々としていく。男たちや娼館の女将は彼女に世界を教えてあげると言う。
そして彼女は、彼らの想定を超えて世界を知っていく。
科学から始まって、宗教、享楽、哲学に皮肉(貧困)、娼館は社会とそれを作る主体だろうか。(フーコー)

新しい場所に行ってより広い世界を知ったら、自分が今までどこにいたのかも知ることになる。そして唯一だと思っていたものが唯一ではないということにも気付いたりする。
それしかないと思っていたものが、選択可能なオプションの1つだったのだと気付くことで、その上でそれを選ぶかどうかという主体性を獲得できる。マークラファロを捨てたり、博士の元に帰ったり。

最終的に彼女は自分がどこで生きるのかを選び、そしてかなり悪趣味な元夫と言うべきか、元父というべきかな男への処遇も決める。
最初に書いた、そこに着地するんかい!ってオチも、我々の考える倫理の外側に着地するという意味では、常に求められる姿から逸脱して来た彼女の旅の流れからしてむしろ自然だ。誰の期待にも、我々の期待にだって沿う必要はない。

まあ、気付けばそれだけで選択権を得られるという彼女の旅路はある意味特殊な事例ではある。実際のところ、自分が今どこにいるのかが分かったってどうしようもない場合もある。
彼女は一文無しになって娼館で働くことにしたけど、しかしそれは直前に彼女が哀れんだ貧しい子供達と同じ場所に立ったということにはならない。

それでも面白いし、そのまま行け!って感じのいい話だと思った。

──その他、細かな感想。

・最序盤だけカラーで、すぐに白黒に移行したので「これベルファストパターンか?」と思った。分かった上で見る白黒は大丈夫だけど、不意打ちで見せられる白黒はちょっとしんどい。

・旅に出てからは面白かったっていうか、マークラファロと旅をするパートがマジで面白かった。
珍しく悪い男を演じるマークラファロ、熱烈ジャンプが直接的すぎて面白い。
そしてなにより、そんな彼への仕打ちと、大胆不敵だった彼がどんどん惨めになっていく様が可哀想で可愛すぎた。

・マークラファロの惨状をはじめ、かなり笑えるシーンが結構あった。静かな劇場だったので声を上げるまでは行かなかったけど、ラストとかでは実際にクスクス笑うくらいはしていた。

・エロ漫画みたいな性教育も面白かった。父親と娼婦のセックスを見ながらメモを取る幼い息子。最初の客、絶妙に嫌な感じだったな。髪の毛の長さとか体つきとか。

・ヨルゴスランティモスと組むエマストーンのマジで覚悟決まってる感じが好き。

・恋人がモハメドサラーにしかみえなかった。マジで似てる。髪型とかだけでなく人の良さそうな雰囲気も。

・ベラが最初に帰郷するあたりで隣の席の男性客が鼻を啜っていたので、なにが刺さって感動したんだろうと気になった。そんでその後の展開はどう感じたんだろう。急に梯子を外された感覚なのか、それとも納得があったのか。
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