かなり悪いオヤジ

Pearl パールのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
2.8
このタイ・ウェストという監督、多分伏線をうまく引けない人なのであろう。クリストファー・ノーランの初期作品も伏線下手がとても目についたのだか、ノーランとウェストではそもそも格が違うのである。前作の60年前を描いたということで、『X』への伏線をビシバシかましてるのかと思いきや、次に繋がるのは🐊とΨだけという捻りのなさ。せめて時系列をいじくるぐらいの工夫が必要だったと思うのだかそれもなく、次に何が起こるのか簡単に読めてしまう展開はホラーにとって致命傷といわざるをえない。

渾身の演技と巷の評価もうなぎ登りのミア・ゴスであるが、小一時間も練習すれば簡単に真似できそうなあんなクソダンス、トラウマという意味では『籠の中の少女』の学芸会ダンスに比ぶるべくもなく、インパクトという点では『ミーガン』(未見)のクネクネダンスの足元にも及ばない。映画ラストの泣き笑い顔の長回しドアップも静止に耐えられず終始カタカタと揺れっぱなし。クランク・イン後は役者のスマホ使用一切禁止というノーランのような厳しい監督ならば、間違いなく撮り直しであろう。

『オズの魔法使い』へのオマージュも取ってつけたようなパスティーシュにしか見えない本作が、何故評論家の間でこんなにも激賞されたのか。前作のマクシーン同様、「望まない人生は送らない」をモットーとするシリアル・キラーPearlを一種のフェミニストとして演出したフェミニズム映画だったからではないだろうか。普通に考えれば、“中二病にとりつかれたカマッてちゃん”にしか見えない発達障害女Pearlを無理やりフェミニストに仕立てあげること自体無理があったわけで、その意味ではエドガー・ライト監督『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』を見た時と同様、取材の甘さと後味の悪さが際立っているのだ。

厳しいドイツ人母ちゃんの抑圧と車椅子生活の父ちゃんの介護に疲れはてていたというのが殺人の動機らしいが、近所のスーパーで車椅子の母親に目茶苦茶罵られながらいつも買い物をしている地味な娘さんが、もしもこの映画をみたら一体どんな感想を持つのだろう。Pearlのとった行動が単なるわがままにしか思えず「私の方が百倍辛い思いをしているわ」ときっと呟いたに違いない。おそらく(やらせ的な)評価は高くても興行の方はいまいちで、直ぐにアマプラで配信される作品となることだろう。このクソ暑い最中にわざわざ劇場まででかけて見るまでの価値はないので、それまで待っていた方がいいですよ。