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Pearl パールのshinodogのネタバレレビュー・内容・結末

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

尖ったホラー作品を多く手がけるA24が初の三部作として作ったホラー映画第2作目。
引き続き監督はタイ・ウェスト、主演はミア・ゴス。
今作ではミア・ゴスは脚本や制作総指揮にも参加。

前作「X」は視聴済みであの性欲丸出しシリアルキラーお婆のパールがまさか主演のミア・ゴスが演じていたとはエンドクレジットを観て椅子から転げ落ちそうになるくらい驚いた。
作風もストーリーの年代に合わせた70年代のエログロスラッシャー映画の雰囲気を醸し出し、全くスベる事なくかつ、新しいホラーアイコンとして生み出していてとても面白かった。

そして今作はそのパールの若かりし頃を描いた、いわゆるオリジンもの。
期待はもちろん爆上がりでの鑑賞。

・良いところ
まず、アバンタイトルから最高
ものの数分でパールが置かれている状況を理解させ、そのあといきなりアヒルを農具で串刺しにしたかと思えば、ルンルンな足取りでワニのところに行き、ワニがアヒルに噛みつこうとした瞬間にデカデカと「Pearl」のタイトルがドカン!
ここだけでこの映画は絶対面白いと確信を得た瞬間である。
彼女の取り巻く環境は最悪である。
最愛の旦那は出征し、父は流行病に侵され要介護状態、母は毒親同然で娘のパールをあれこれ縛り付ける。
この鬱屈した状況が延々と続くことによって、
後々のパールの凶行の数々がある種の爽快感に繋がっているんだと思う。
案山子と踊って終いには行為に及んだり、車椅子の父を飼っているワニに落とそうとしたり、映画技師に夜中会いに行って関係を持つのかと思ったら何もなく帰ったりと観客はどんどん焦らされていく。
そして、教会のダンスのオーディションを巡って母親と喧嘩をし、半分事故的に大火傷を負わせてしまう。
ここから全てのタガが外れて、ジェットコースターのように物語が進行していく。
この先はもう名場面の数々。
・狂気のダンスシーン、
・この世の終わりかのような号泣、
・空想の旦那に向けて7分にもわたる独白、
・義理の妹の殺害を長回しでの撮影
そして、
・出征から帰ってきた旦那に向けた喜び、悲しみ、怒り全てが混ざったかのような満面の笑顔でのラストショット。
通常静止画になって終わるんだろうけど、あえて動画なのがまたすごい…
ラスト30分くらいはもう釘付けになるくらい最高の出来であった。
そして何よりその全てが主演のミア・ゴスの演技の賜物できあがっている。
普通にアカデミー賞主演女優賞取っててもおかしくないのでは?と思ってしまう。

・悪いところ

90分近くあるうち、50分近くはパール自身や周りの掘り下げに当てられているため、これといって何も起きない。
この焦らしが人によっては苦痛に感じてしまうかも。
特にスラッシャーホラーを期待して鑑賞した人は特にモヤモヤしてしまうかもしれない。

しかし、そこがあるからラスト30分が光っているんだと思う。
これでまた前作「X」を観たらさらに面白さが倍増である。

「ホラー好きがホラー好きのために作ったホラー映画」だった。

それにしても、あの光景を見た旦那と以後60年間その農場に過ごすことになるのだが、一体彼はどんな心境だったのだろうか?
あとは想像にお任せしますということなのだろう…

次回作で最終作「MaXXXine」も否が応でも期待してしまう。

余談だが、本作で20作品目。
最高の節目であった。
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