いけ

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのいけのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

ゆっきゅんの新曲「ログアウト・ボーナス」のMVの監督を金子由里奈さんがしていた事をきっかけに鑑賞。

これは自分の映画だなと思う作品だった。
普段ぬいぐるみに話しかけることはないけど、この映画が描こうとしている事が確かに自分の中にあるなと思った。

あらゆる暴力が罷り通っていて、一つ一つに気を取られていたら生きていけないような社会だと思う。そして、自分が気付かぬうちに加害者側になっているかもしれない。だから、迂闊に言葉を発することも憚られるような世の中だと思う。

作中のキャラクターたちも同じような事を現代に感じていて、彼らが解決策に選んだのがぬいぐるみに話しかけることだった。
ぬいぐるみに話しかけることって、要は自分との会話なんだと思う。自分の思考を整理して、自分が他人にかけて欲しかった言葉を探す作業なのかなと思った。
僕も人に悩みを相談するのが苦手で、「僕が欲しい言葉は一体誰がかけてくれるのだろう」と思うことがある。
物語のテーマは終盤にかけて、ぬいぐるみにではなく、人に話すことの重要性にシフトしていく。ぬいぐるみに喋ることを否定はしないけど、私たちはもっとお互いに話すべきだった、お互いに「あなたは大丈夫だよ」と声をかけるべきだったと。
本当にその通りだと思う。
自分と対話することは大事だけど、人と話すことで癒されることって本当にあると思う。

面白かったのは、白城さんの立ち位置。
彼女も決して悪者ではない。
過酷な社会を必死にサバイブしていこうとする女性だと思う。
そんな彼女がサークルを辞めなくて良かった。
そして、ぬいぐるみに話しかけない彼女が最後「傷ついていく七森や麦戸ちゃんを優しさから自由にしたい私はぬいぐるみと喋らない」とモノローグで語るのも痺れた。
彼女は仲間のために社会を変えようとしてるんだなと思った。
白城さんが卒業後、イケてる雑誌の編集者になって、どんどん出世して編集長になって、世の中のために、七森や麦戸ちゃんが傷つかない社会を作るために雑誌の紙面で戦っていくんだろうなって将来が見えた。

印象に残ったシーンはおばけちゃんをシンクで洗って、排水溝に水を流すシーン。
水が流れてだんだん水面が低くなり、おばけちゃんの布地がハッキリしていく。そして、最後に排水溝に流れる水がゴゴゴっと低い音を立てるのが、おばけちゃんの鳴き声みたいに感じた。

いい映画を見たなぁ🥰
いけ

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