すーど

美と殺戮のすべてのすーどのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.3
写真家としてのナン・ゴールディンは、学生時代に写真にかぶれていた時に写真史の本を読んで、少しだけ知っていました。「性的依存のバラード」は覚えていました。アメリカのサブカルチャー界隈の人たちを撮った写真家、という記憶。

本編は、アメリカの社会問題、オピオイド危機の発端となる鎮痛薬オキシコンチンの製造元、パーデュー・ファーマと、その創設家のサックラー家への抗議行動に身を投じるナン・ゴールディンと、彼女を行動に駆り立ててきた背景(彼女が出会い、愛してきた人たちとその人たちの死)をクロニクルに構成したドキュメンタリーになっています。彼女自身が、ベルリンで受けた手術の際にオキシコンチンを処方されすぐに依存症になり、そこからの離脱にとても苦しんだとのことです。

彼女の過去の6つの章のパートは、ナン(とインタビュアー)の語りとともに、彼女が過去撮影してきた写真をスライド形式で投影していくスタイルになっています。一枚一枚ゆっくり切り替わるので、ある程度はしっかりと映し出される写真たちを確認することができます。
2018年頃を中心とした抗議活動の映像は、デジタル撮影なのでクリアである一方、スライドに映る写真たちは銀塩フィルムで撮られているので、個人的にはフィルム写真の特性(いわゆる、粒状性?)が楽しめました。

抗議活動の進展、パーデュー・ファーマの現在、抗議対象となった美術館や大学がどういう行動を取ったのか、などは、映画で見ていただきたいですし、本作はドキュメンタリーなのでネタバレもクソも無いとは思いますが、事実については僕が書く必要はないと思うので割愛します。

映画の終盤で、年老いた両親が姉バーバラのことを語るシーンがあります。ここで、どうして姉が病院に閉じ込められなければならなかったのかがわかるようになっていますが、この事実が語られるシークエンスが、この映画で僕が一番重要と感じた箇所でした。折に触れてナンが「スティグマを取り除きたい」と語っていますが、この強い思いはまさにここが原点なんだろうなと思います。
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