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美と殺戮のすべてのプレコップのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
3.8
意図した形としてのスライドショー

個人的に音楽系のドキュメンタリーで何度か批判的に観ている、写真を垂れ流すだけのスライドショー形式。今作もそうした表現が見られるが、写真家を取り上げるという性質的にはっきりとした意図が見えた。現代美術の展示を眺めるように、写真、絵画、映画、音楽などさまざまなアート作品からキャリアを追っていくため、まさに美術館のような新鮮な鑑賞体験があった。

ニューヨークのアンダーグラウンドシーンから登場したナン・ゴールディンを取り巻く二つの事件から、危険なオピオイド鎮痛剤を売り利益を上げたサックラー家に対するデモを追う。これまで過ごしてきた環境から「生きていくことがアート」という信条を自然と持った彼女の、抑圧されながらも自由と希望を持った活動とそれに伴う名声の活かし方として納得しかない「美を汚すものたち」への反抗は新たな視点であって、美術を消費するだけの自分自身にも身につまされるところがあった。

サックラー一族が寄付をしている多くの美術館の中でもナン・ゴールディンがメトロポリタン美術館とグッゲンハイム美術館にこだわったことに、ニューヨークへの非常に大きな思い入れを感じずにいられない。メトロポリタンの旧サックラーウィングには私も訪れたことがあるだけに、とても興味深く見ることができた。
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