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アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~のエレクトラのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

軍事独裁政権解体と民主化の2年後である1985年、軍の暴力性を問う初の(軍事裁判ではなく)刑事裁判が開かれた。

控訴裁判所の検察官フリオ・ストラセラは、上司からの事前通達を無視し続けている。民主化後も権力を十分残した軍を敵に回すことの危険性、負けた場合に民を苦しめ続けた張本人に潔白の調印を与えてしまうこと、そして、この裁判自体がその後の民主主義にきたす計り知れない影響を考えれば、誰も二つ返事で引き受けられる仕事ではない。
裁判所は、軍家系出身の若く経験の浅い副検事をつけることで、裁判の意義に共産主義的な意向がないことを示し、中流層の反発対策をとる。

拷問を生き延びた者たちの証言は、聞き手を待ち侘びた声がようやく見つけた受け皿として、検察チームに国中から届きはじめる。発足から開廷まで、5ヶ月というスケジュールである。

英雄とも言えるこの検察官の仕事の描き方は、個人を神格化しない態度をとっている。引き受けるまでの苦悶と家族の後押しをコミカルに描いている点。裁判の締めくくりであり検察としての意見陳述である論告を草案する段には、存分に周囲の人の手を借り、大衆運動の標語となっていた”Nunca más” (もうこれ以上は許さない) を引用して締める。喝采の傍聴席、副検事との抱擁。
また、論告を練る際の言葉一つ一つとの対峙だ。その後民主主義の議論を強く推し進める特別な意味を与えられるのかも知れない言葉をまとめる気分は、畏敬だっただろうか。高潔な正義や民衆への責務だっただろうか。