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バルド、偽りの記録と一握りの真実のtorumanのレビュー・感想・評価

4.4
イニャリトゥの『8 1/2 』あるいは『オール・ザット・ジャズ』

『バードマン』「レヴェナント』のアカデミー賞監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの自伝的作品です。

荒地に映る影が助走をつけてジャンプ〜
空高く飛び上がる。
夢で観たことがある風景

長男誕生〜
過酷な世の中を拒否して母胎にもどっていく〜
血だらけのへその緒

ウーパールーパーを電車で運ぶ〜
電車の床が水で溢れる〜
家の床が水で溢れる〜
上にカメラがパンすると砂漠に建てたセットの家

ここまでが冒頭のシークエンスです。
シュールで
グロテスクで
美しくて
ちょっと可笑しい
基本これが2時間54分続きます。
好き嫌いがハッキリ別れる作品です。

著名なジャーナリストのシルヴェリオが、国際的な賞の受賞が決まり故郷のメキシコへ。
道中の夢か現か分からない世界で、自分とは?故郷とは?家族とは?過去の後悔や今の自分の在り方を脅かしていく…。"
というストーリーですが、
話を追うことに躍起になっても、くたくたになるだけです💦
自由奔放なイメージにただ身を委ねて観るのが吉の作品です。

終盤に、この作品の全体像が解ります。
この台詞、このシーンはこういう事…
解った時点でもう一度観たくなりました。

ほぼ全編が目を奪うような美しく奇妙なシーンの連続です。

【とりわけ印象的なシーン】
・街の人がバタバタと倒れ、屍のピラミッドが完成。頂上を目指すシルヴェリオ。
これは、8.1/2のロケットのオマージュ⁇
・少年同士の米墨戦争(メキシコとアメリカの戦い)が唐突に始まる。
残酷であっけらかんとしたユーモアはエミール・クストリッツァ監督のようなシークエンスです。
・大勢が入り乱れるダンスホールを、右往無尽のワンショットで撮るダイナミックなシーン
バードマンを超えてます。

撮影はアカデミー撮影賞ノミネートのダリウス・コンジ。
65㎜フィルムで撮影した、数々の超現実的なショットはずっと頭の中に記憶したくなります。

音響設計も素晴らしいです。
アパートで姿が見えなくなった妻の声だけが聞こえるシーンでは、劇場の横から斜め後ろから立体的に物音が聞こえます。
24時間中、アパートのあらゆる場所で録音をした賜物です。
ダンスホールでサルサが唐突に、デヴィッド・ボウイの「Let's Dance」のアカペラに変わる鳥肌ものシーン!

ネトフリ視聴が基本になってしまうのが勿体無い映像と音響の贅沢さが大きな魅力になっています。

自分の大好きな要素が沢山詰まった
今年のBest級作品です!
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