けんくり

バルド、偽りの記録と一握りの真実のけんくりのレビュー・感想・評価

4.5
世の中で評価されている作品と、その作家とのバックグラウンドは必ずしも一致しない。そのジレンマを悪夢的に描き出した悲喜劇。

スケールは全く違うけれども、自分とは少し距離が遠い社会的なテーマについて書いた作文が、大きめのコンクールで受賞して"しまった"ことがあって、沢山賞賛された喜びの裏で感じていた、やり場のない「気まずさ」や「申し訳なさ」を思い出した。

直接自分や先祖とは関係のない民族や国家の問題を描く、貧困層の物語を描きながらリゾート地でバカンスを楽しむ、男性がフェミニズムを取り扱う。こういった矛盾は、自分の知っている有名作品をざっと見渡しても、結構"あるある"だと思う。

そうした必ずしも劇中の人物と、作家である自分の境遇とが一致しない作品で名声を得てしまうと、ある種の負い目の中で、「懺悔」をしながら創作活動をしなければならないのかもしれない。

本作はイニャリトゥが自身をテーマにした、皮肉的な「ドキュフィクション」だと思うが、だからこそ「死ぬまでこの重荷を背負って行くのだ」という覚悟のようにも感じた。