鮭茶漬さん

ボーンズ アンド オールの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.0
カニバリズムの純愛というのが斬新なものの、ピュアな想いとは裏腹にグロで衝撃的な描写もあり、観る者の価値観や倫理観で評価が二分することは確かである。視覚的というよりズシリと胃がもたれるような不快感。けど、根底にあるのは、自分探し、ロードムービーである。自分が生まれ持った異質な特性を知るために、出生を巡れば巡るだけ過酷な運命しか待ち受けない、猟奇版ボニー&クライドは共感性は皆無ながらも、青春ラブストーリーとして観てしまうのだから、グァダニーノ監督の演出は秀逸である。
ただ、これを多様性とは位置づけたくはない。お互いの違いを認め合うのがダイバーシティであるならば、やはり食人なんて特異性は認められない。だから、これを現実に存在するマイノリティと一緒くたにするのは、あまりに差別的だし侮辱的だと思うのだ。しかし、居場所がなく、孤独感や不安感、望まぬ属性に苦しむ彼らの姿は切ない以外に形容しがたい。

シャラメが最初に人を食べたのは「ベビーシッターだ」と言えば、「私も」と笑い合いながら共感するのも、ファミレスで食事をしながら人食いの話をしているのも、いやいや、本当に悪趣味極まりない。この映画では食人特性のある者は、見れば、同族だと分かるらしいが、あのファミレスで彼らを見つめていた隣席の赤子は、、、いや、考えすぎか。
それと、何よりもマーク・ライランスの不気味さったらない。食人のまま年齢を重ねたからだろうか、対人恐怖症のような不器用な少年のような佇まい、うつろな視線は見事。『ブリッジ・オブ・スパイ』では、ちょい役にも関わらずオスカー助演男優を獲ったことに不満しかなかったが、うん、やはり名優である。

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