Foufou

アテナのFoufouのレビュー・感想・評価

アテナ(2022年製作の映画)
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題名からして神話的です。
アテナイは言わずもがな戦いの女神。たしかペルセウスの切り落としたメドゥーサの首を、首から下げたんだったか盾にはめ込んだったか……いずれにしても最強ですね。

で、この「状況」を一大叙事詩として撮り切るんだという気魄が、熱量が、もう冒頭から凄まじい。気魄はやがてモロトフの火として炸裂し、炎は団地を、人を、包んでいく。

プロットも勢い神話的です。それこそギリシャ悲劇を見ているようです。はらからの死、確執、腹違いの裏切り、そして復讐。

カメラは主要人物に密着するばかりだから鑑賞者もまた状況に巻き込まれた一個人たらざるを得ず、状況を俯瞰する余裕はついに与えられない。この行き詰まる感じ、演出として効いていますね。ただ、事態の大きさに比して、機動隊の数が少な過ぎると感じられるのは、果たして現実の反映なのかどうか。

日本は埼玉川口の、クルド人問題を想起しました。そのとき、先住者たる日本人の「国民性」なる幻想を揺さぶらずにはおかないのは、ほかならぬ言語だろうと、そう思いましたね。本作に描かれる団地「アテナ」には、多くの移民(2世か3世か)が暮らしている。フランス国内の格差問題を炙り出さんとする、明確な意図を持った映画です。そしてフランス当局に怒りをぶつける彼ら全員が、フランス語を話すし、おそらくはフランス語しか話せない。これがアラビア語なりを話しているのであれば、対立構図はより単純明快に浮かび上がるはずです。川口で「暴れている」と称される若者たちも、難民申請中の子や孫といったいわゆる二世三世で、おそらく母語を日本語とする者も少なくないと考えられる。そういう彼らが、先住者に日本語で否を突きつけるときの居心地の悪さ、これは想像に難くないでしょう。で、本作を支配しているのは、まずこの居心地の悪さなのではないかと、ふと思うわけでした。そしてそれは、私もその一人である日本人の鑑賞者には、なかなか見えにくいのではないかとも。

神話的に撮ろうとするのは、問題の普遍化を目指すからでしょう。そしてそれは本作においてかなり成功しているといえる。だからこそ、最後のシークエンスを私なんかは蛇足と感じるのですが、どんなものでしょうね。
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