ご機嫌な黄色

サントメール ある被告のご機嫌な黄色のレビュー・感想・評価

サントメール ある被告(2022年製作の映画)
3.7
鳥映画のネタバレを避け続けるのもしんどいが、
‘下手なこと言えない’作品について人様のレビューや解説に日和ってしまうのも避けたいので、
本日はコチラ

彼女は、浜辺に生後15ヶ月の我が子を放置して死なせた
「なぜ?」
「分かりません。裁判で知りたいと思います」「私に責任があると思えません」
彼女は、自ら手で我が子をそこに置いたことは認める
しかも満潮時を選んでいる
社会は、強者は、マジョリティは、弱者を危険な場所においたのは自らの行為だとは思っていない
溺れ苦しんでも死んでも、流されて見えない
稀にあがる悲鳴と無惨な姿にマスコミが一時的に騒ぎ、その度に人々は試される

ドキュメンタリー畑のセネガル系フランス人女性アリス・ディオップ監督は
母娘の関係性という普遍的なテーマを誰もが自分の問題として捉えられるようフィクションとして、実際の裁判記録とその裁判傍聴の経験に基いて今作を撮る
作家ラマは監督のポジションに見えて完全にフィクションのキャラクターらしい
監督自身が彼女の母との関係を探るパーソナルな面と、描かれたラマと彼女の母との関係性はどうなんだろうか
『メディア』と重ねて語ろうとしていたのも監督かと勘ぐってしまう
クライマックスのキマイラのエピソードは実際の法廷でも語られたものだが、裁判記録そのままではなく一部変更が加えられたそう
この弁護人の長回しが被告と事件についての纏めである
そこで法廷内の幾人もの顔がアップになるが、女性ばかりで男性は誰一人どんな顔をしていたのかは分らない

『燃ゆる女の肖像』のクレール・マトン撮影監督の距離を取った動かないカメラが被告を捉え
日に日にアップされていく
その張り詰めた場の空気は妊婦であるラマ自身の母になることへの問いかけと緊張でもある
そして娘としての母への複雑な思い

正直なところ私には刺さらなかった
ラマのホテルでの過ごすシーンが冗長に感じるし、
女声アカペラコーラスの劇伴も彼女の感情の高まりに添っているようでいて大仰
冷徹に見えるロランスの動かない表情よりも
ラマのエモーショナルな表情の方が私には汲み取り難いものだった

私はのほほん生活故に実際の事件及び報道等扱われ方を知らないままの観賞となり、
映画内の裁判の進行で知っていった
淡々と進む法廷劇に、これは役者さんの芝居で監督も存在するんだぞと意識しないと危険なくらい
憑依的な彼女達の現実がそこにあった

『メディア』ではなく『ヒロシマモナムール』への帰結
ご機嫌な黄色

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