充実した顔の映画。法廷映画にお約束の弁護士と検察官の駆け引きはない。法廷内ではときおり引きのマスターショットがあるほかは、女性の被告、語り部の女性作家、女性裁判官、女性弁護士、男性検察官、それに証言者のクロースアップがひたすら続く。同じ画角の切り返しショットがいくたび繰り返されても単調に見えないのは顔とセリフにさまざまなニュアンスがあるから。濱口竜介のリハーサルメソッド(セリフが体に落ち着くまで感情を込めずにひたすらセリフを読む)を思い出した。フェミ要素や白人中心主義批判要素はあるけれどメインテーマは母娘の呪いの関係。傍聴する女性作家が、被告が向けた眼差しに共振して激しく取り乱すあたりの痛さが格別。