コマミー

蟻の王のコマミーのレビュー・感想・評価

蟻の王(2022年製作の映画)
3.5
【蟻のような世界】


※fans voice様のオンライン試写会にて鑑賞




「家の鍵」や「ナポリの隣人」で知られる名匠"ジャンニ・アメリオ"が、イタリアで実際に起きた「ブライバンティ事件」を映画化したものだ。
いわゆるこの頃のイタリアというのは、と言うより当時はどこの国もそうだったかもしれないが、"同性愛"をしている者を"人間として認めない"時代であり、それを企てた者には「教唆罪」と言うものが適用されたのだ。今では「教唆」による犯行というのは別の形で適用されるのだが、この頃は"同性愛を犯罪"として認めさせる為に用いられた。極めて残酷な時代である。

題名に「蟻」が使われているのは、まず一つに主人公の"アルド・ブライバンティ"が"蟻の博士"であるのも理由の一つにあると思うが、蟻の"生態"にも勿論起因する。
蟻には2つの胃があり、一つは自分自身の消化器官として、そしてもう一つは、他の蟻達と"共有する"為の保管場所としての胃だ。つまり蟻には口移しをして、餌を分け与えているのだが、アルドはこの蟻のように、"どんな性別同士でも愛が共有できる世界"を望んでいたのである。その共有する相手が、その教え子である"エットレ"だったのだ。
エットレがどれくらいの年齢だったのかは知らないが、アルドはエットレにどんどん惹かれていき、"近づいてゆく"。

物語の後半は、アルドが教唆罪にかけられ、同朋で新聞記者である"エンニオ"が出てくる。このシーンは勿論残酷なのだが、"治療という名の拷問"を受けたエットレの姿が映画の中でもう見てられなかった。まさに人を人として扱わない時代が招く光景だった。

ただ、疑問に思う所もある。それはやはりエットレのアルドの年齢差だ。先程も書いた通り、エットレの詳しい年齢は明らかにされていない。もしエットレが"20歳に満たない年齢"だったら、今でも裁かれても仕方ない事例ではないかと強く感じた。これに関しては断定はできないが。
そしてこれは疑問ではないのだが、アルドが"自分自身に共感を求めてない"描き方をしているのが興味深かった。原作がどうなのか知らないが、アルドは結構エットレ以外の生徒には結構"理不尽な対応"を見せるのだ。裁判の発端となった"エットレの兄"に対しても、かなり冷たい対応を見せる。自分自身の正統性を訴えたいのなら、このような"自分のネガティブな面"は書かない方が良いと思うのだが、これに関してはまだまだ議論が必要な点かなと感じた。

分かりにくい部分もかなりあるし、正直、アルドとエットレに平穏が訪れるのかというとそうでもない。ひたすら、暗い部分が描かれる。
だが、この「ブライバンティ事件」による裁判は、"人々の無知"が結集してアルドとエットレに襲いかかる本当に歴史上最も惨い裁判である事は知るべきだし、同性愛に対して少しずつ寛容になってきた現代だからこそ、もう少し見つめ直す必要がある作品なのである。
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