708

蟻の王の708のネタバレレビュー・内容・結末

蟻の王(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

同性愛が精神異常な病気や罪として扱われた1960年代のイタリアの実話。

ムッソリーニのファシスト政権下において、同性愛者は存在すら認められていないため、それを禁ずる法律も存在していないというそんな時代。詩人で劇作家で蟻の生態研究者のアルドが、教え子の成人男子エットレと同意の上で愛し合い暮らしていたものの、エットレの家族の訴えでアルドは教唆罪で逮捕されて収監され、エットレは矯正施設に送られて電気ショックで治療されてしまいます。まるでアルドがエレットをそそのかして洗脳したかのような嘘の証言の数々。統制の取れた蟻の生態系は、統制が取れない人間社会とのコントラストのように思えます。蟻には胃がふたつあって、ひとつは自分のもので、もうひとつは仲間に分け与えるために蓄えるものというのが象徴的でした。

僕は1969年生まれなんだけど、その頃に起こっていた話だと考えると、意外と最近の出来事なんですよね。そういえば、中絶が違法だったフランスを描いた「あのこと」も、1960年代の話なんです。今は普通のこととされていることが、ちょっと前まで禁忌だということに驚かされます。

新聞記者エンニオやエンニオの従妹など、アルドの支援者たちが裁判に反対するデモを繰り広げるのですが、実は、マルコ・ベロッキオやパゾリーニといった映画監督や作家たちがアルドの無罪釈放を求めて活動していたそうです。そこは一切描かれていませんが、アルドという人物に焦点を当てた描き方をするためには、正解だったと思います。そして何よりアルドの母親が何よりの理解者だったことが大きな救い。

アルドがエットレと天気雨の中で再会するラストのシーン。それまでの辛いすべてを洗い流してくれるかのようでしたが、それ以降、もう二度とふたりが会うことはないことをテロップで知り辛くなりました。「悲恋」みたいな安いワードで表現したくないほど過酷すぎます。
708

708