totsu9piero

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥのtotsu9pieroのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

前作で悪のカリスマとされたジョーカーのその後。呪縛からの解放、伝染。
感想を書く手が進まない。難しい。

レディーガガの虚ろな目が印象的。一見ジョーカーに陶酔しているように見えるが、目に光がないようにも見える。なんというか、輝いて見えるように感じる時もあるが、どこか違う気がしてならない。
ホアキンの体づくりすごい…。前作もそうだが、あの体を見ただけで伝わる。序盤で引き込まれた。ミュージカルで見えにくくなっているが、やはり悲壮感。あまりそこには今回フォーカスしていなかったが。1回観るだけだとあまりホアキンの演技に集中できなかった。


なんとなく感じたのは、モニター、テレビを観ている側、つまり映画を見ている側を意識しているようなイメージ。
熱狂した集団が思い描いていたようなジョーカーはいない、いたのはアーサーだった、みたいなことだろうか。前作の逆を行く。反響、熱狂、陶酔など、とてつもなく良いと思うものに理想や価値を見出したり期待を寄せるのはいいが、そこに必要以上の偶像や願望まで織り込んでいないかと自問せざるを得ない。
裁判所の壁を吹き飛ばす程の熱狂は正直引いてしまって、やけに突拍子もなかったので笑ってしまった。あんなムーブメントが起きてくれやしないかという、持ち上げられ過ぎた者の哀しい妄想。
きっと前作の熱狂ぶりのままで裁判所破壊を迎えていたら、再び狂気をゴッサムに巻き起こすのかとその熱量に圧倒されていたのかもしれないが、良い意味で失望し拍子抜けさせられたため、響きが全く違って感じられて面白かった。

なす術もなく見放され堕ちるしかなかったが、社会に溜まっていた不満と共鳴し全てを破壊してみせた前作のジョーカーに目を輝かせる。あなたは完璧。本作のリーのような気持ちでこの映画を見始めるとうんざりしてしまう。狂気が見え始め勢いを取り戻しつつも、急激に尻すぼみに勢いを失い、衰えていく。途中も何がしたいのかわからない。狂気といえば狂気だが、迷走、乱心にも似ている。
事あるごとに舞台で踊り歌うジョーカーは、流行り廃りで消費されていく薄っぺらいタレントみたいだった。わかったわかった、また出てるよ、あの流行ってる人ね、みたいな。一挙に繰り返し繰り返し披露されていく事で段々と価値が擦り切れていき、いつかは捨てられ忘れ去られていく。そしてあれほど熱狂していた社会の熱の届かない刑務所で、1人死傷を負わされ死が近づいていく。
前作でテレビ放送中にジョーカーが殺したコメディアンのマレーみたいな役回りがアーサーに回ってきた。本人が知らずのうちに「持つ者の側」に回ってしまっている。愛する人もいて満たされようとしている。満たされたが故に突然歌ってみたり、看守への不満を公然と披露する余裕すらある。刺した側、何も持たない側からしたら羨望、嫉妬。入所してから常にもてはやされ、何をするにも注目の的だった。
"The joker is me." 唯一無二ならTheは必要ないはず。アーサーに限ったことではなく、誰もが成り得るのかもしれない。大きなことを起こしそこに希望を見出させてくれれば誰でもよかった…?刺した者とふたり、冷笑と誰も称えない廊下でひっそりと殺しを遂げる。

失望したリーに会い別れを告げられた後、刑務所に場面が切り替わる時、物語の序盤に戻ったのではないかと勘違いした。勘違いなのかも自信がない。テレビに映るアニメに既視感があり、自分の中で映画の中の記憶を辿るあの瞬間がよかった。時系列と妄想と現実の区別がわからなくなる。アーサーの友達みたいな若い男がいなくなっていたように見えた。どこまでが事実?今まで見ていたものはなんだったのか。

正直前作のダークな世界観で重めの展開を期待していたからなのか、見終わった後、ひどく疲弊していた。それはきっと、ミュージカルのような芸術作品なのか、その影に隠れた恋愛ものなのか、前作のような暗いジョーカーや社会の内面を描いていくものなのか定まらなかったので、フワフワした気持ちで見ていて、違和感も少しずつあり気が抜けないなど考えていたからだろう。没入感には至らず、かといって一歩引いてみることもできず彷徨っていた。
感想を書いている今でも定まっていない。難しい。


涙ながらの元同僚の訴え。「お前だけは自分を笑わないでいてくれた」それによって剥がれる仮面。アーサーの不器用で優しい面が戻ってくる。本来なら良い話の流れのはずなのに、愛する者は失念し離れていく。(おそらく熱狂した集団もそれを受け入れない。)偶像に取り憑かれた世界の行く末。
アーサーが言っていた、自分の話を聞いてくれという話。周りは誰もがジョーカーの話を聞きたがる。ジョーカーではなくアーサーを尊重していた弁護士もジョーカーによって解雇され、アーサーの話を聞く人はそれそこ1人もいなくなった。注目も集まり、信奉者、心酔する者も寄ってきたが、アーサーの、つまり本当の声を聞くものは1人としていない。そしてアーサーの悲劇を締めるのはジョーカーに感化された、同じ立場の人間。ジョーカーの影を彼に重ね、アーサーは独り死んでいく。
「歌わないで、話を聞いてくれ。」
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