英雄の死後。後日談。
皇帝の血は闘争に利用されうる、当人たちが権力を望まなくとも。滅亡するまで過去の権威はついて回る。
何より監督が自分の作品をどれくらい愛しているのかがすごく伝わってきて。前作の美しい場面はセルフオマージュ的な形で、それでもしつこくならずに、面影や継承という形で表現していてすんなり入ってきた。
将軍としてローマの栄光に貢献しつつも皇帝の腐敗に対し謀反を企てるも闘争に負け散っていくアカシウス。マキシマスや皇帝の血を引き継ぎ、剣闘士に身を落としながらも祖父マルクス・アウレリウス帝の儚い夢を実現しようとするルシアス。マキシマスが1人で背負わされた運命を2人の英雄が引き継ぎ、収束していく様が本当に美しい。指輪を託すシーンは本当に胸が熱くなる。
民衆の熱狂的な支持を得たアカシウスとルシアス。この2人の決着次第では民衆を間違った方向に導いてしまうのではないかという危機感を感じながら見ていた。たしかに将軍はルシアスの仇ではあるが、こういった形で処刑をさせるとは。
前作からそうだが、本当に舞台を整えるのが上手い。
ルッシラと皇帝に歯向かおうとした元老院たちを台に立たせて、近衛兵に襲わせ、剣闘士たちがそれを守る構図。
マキシマスからアカシウスへと受け継がれていった指輪を使い、誰の命令と伝えればいいかを問われた時に、初めて権力者としてのルシアスの名を自分で名乗るという流れ。
皇帝への謀反を企てるうちに、戦いはコロセウムの中の剣闘士だけのものから外の政治や民衆にも波及する。マクリヌスが皇帝の血筋である母を殺した上でコロセウムから逃げ、帝国の兵と合流。それに対しルシアスはアカシウスと自らの名で集めた兵と合流したところで迎える最終決戦。
こういった絶妙なタイミングで舞台が整えられるため登場人物たちのドラマをより一層輝かせる。また運命が変わる時がすべてコロセウムの戦いの中で展開されるので、舞台演劇でも観ているかのようだった。
前作の繁栄した大帝国ローマにおける英雄の復讐劇の色濃いものとはまた少し違って、腐敗し崩壊しつつあるローマを舞台に、コロセウムの外で渦巻く陰謀がメインだったように感じる。妻を殺され奴隷に身を落とすといった要素は踏襲しマキシマスの境遇や面影と重ねるという点ですごく意味のある使い方をしていた。それに、時代は変わってもあの伝説的な英雄、その心に通じる者はわずかだが残っていて、それらがタイミングは悪くも交錯する。1人では到底背負える者ではないんだろう。前作も崩さずに今作へと継承していくのがすごく良い。
軍を束ねるカリスマや戦士として地位を築いた者ではなく、権威を示しこれから上り詰めていく者としての新たな英雄像を示してみせた。マキシマスほどのカリスマや腕っぷしはこの時点でないが、その理想を追いかける意志のある若い力といったところ。
前作を受けた上で、
コロセウムで海上戦ができたら?
サイと戦わされていたら?
兵士、奴隷とのクーデターが成功していたら?
闘技場で獲得した熱狂が、民衆の武力や街一つまで突き動かす暴動へと大きく形を変えていたら?
圧政を強いる皇帝側だけを悪とするのではなく皇帝側に正しき心を持つ者が現れていたら?
剣闘士マキシマスを民衆の意に背いて即処刑していたら?
など、そういった新しい要素が詰めこまれていて、まだまだ尽きないアイデアでこのローマの世界の物語をより一層盛り上げてくれている。
ポール・メスカルのこういったアクションや大作での出演は初めて見たので、どうなるか期待と不安が入り混じっていたが杞憂だった。これは本当に活きる俳優。あと予告じゃわからなかったが身体がかなり頑強に作り込まれている。人懐っこい演技や過酷な運命を前にした佇まい、自軍や大衆の前での演説。他の作品でも見せていた表情で見せる芯はありつつも新たな面も見れて最高だった。特にアカシウスを皇帝に殺された後の失望や怒りの入り混じった演説がすごくよかった。
余談だがルシアス、何度も頭から落下していたのでその都度冷や冷やしながら見ていた。受身を取れ。でもそういうがむしゃらなところが、英雄の死後から全てを断ち切らざるを得ず生きるために逃げてきた少年の名残みたいな気がして良かった。戦いは小綺麗な騎士道や歴史のある武術ではなく、あくまで逃れる最中で覚えた生きる術(猿に噛み付くのも含めて)くらいのものでしかない、みたいなものを感じた。(というのは考えすぎか…?)
あと内容とは関係ないことだが。
こうやって大作の続編を作ってくれることで、また改めて多くの人が前作を観る良い機会になったり、映画館で再度前作を上映してくれることになって本当にありがたかった。前作はもう映画館では観られないものと思っていたので劇場で観ることができて本当に嬉しかった。
さらに今作。自分としてはあの前作の続きを作ってくれてこうして観られたこともものすごく嬉しくて。制作が発表されてから不安と期待を抱えながら公開を待ち続けてきた。そしていざ観てみて、自分としては楽しくみれたし、本当に素晴らしいものだった。
監督は高齢だとは思うが、これからもまだまだ挑戦を続けてほしいと思う。