地底獣国

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥの地底獣国のレビュー・感想・評価

3.4
神話を解体したと思ったら別の神話が生まれちゃいました。

あれだな、トラヴィスをレイシストで頭のおかしい奴として描いたのに映画が公開されたら共感する人が思ってたより多くてしまいにゃ大統領を襲う奴まで現れて「やべっ!」てなったマーティン&ポールに近い心境だったのかも。若しくは酷い二日酔いで目覚めたら部屋が大変な事になってた「ハングオーバー」の主人公たちみたいな。

という事で映画は実体としてのアーサー・フレックと巨大化したイメージとしてのジョーカーとの対比、そのイメージに頼って何者かになろうとするハーレイの姿を延々と映し出し、スクリーンの前にいるジョーカー信奉者たちに「お前らのやってるのはこういうことだぞ」と訴えかけているような感じなんだが…

確かに我々のいる現実世界においてある人物が勝手にカリスマと奉られ勝手に引き摺り下ろされるといった事象は珍しくない。だがそもそもアーサーはフィクション世界の住人であり、いくらその卑小な「実像」を描写したところでジョーカーという『概念』にさしたるダメージを与えられるわけは無く、なんなら作り手もそれに気付いてる節がある。

ついでに言うとハーレイの方はレディ・ガガのスター性が出過ぎて(ハウス・オブ・グッチの方がちゃんと抑えられていた)凡庸になり切れてないし歌いすぎだし、その気になればスピンオフが作れそうなぐらいキャラ立ってるのはええんか?

とはいえやはりホアキンの上手さにはしっかり惹きつけられるし、「こうするしかないんだよっ‼︎」と言わんばかりにアーサーの縮こまった姿を執拗に捉え続ける画面から作り手の心情を妄想するのも中々楽しかったんで観て損はなかったかな。

ただし、原作コミックへの敬意を持ち合わせていないのに、ラストでファンに媚びるようなシーンを出してきた監督に対して心の中で舌打ちした事は書き残しておきたい。
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