Ren

ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!のRenのレビュー・感想・評価

3.0
「ミュータント・タートルズ」のことを何も知らずに、所謂ミリしらで鑑賞。人気なのは分かるし面白かったと思うけど、ずっと「マリオ」を観ていたときに似た虚しさを拭いきれなかった。めっちゃデジタルネイティブの人々の映画だと思った。とても薄味に感じてしまった。

コンテンツのごった煮感が気持ち良いのは分かる。日本のマンガやBTSやアベンジャーズの話題が出てきたら多くの(わざわざ今作を観に劇場へ足を運ぶような)観客が嬉しがるのは理解はできるけど、そろそろ疲れてきた。
悪意のある書き方かもしれないが、バズり偏重社会のバズり主義商業時代の王道エンタメに感じた。マルチバースを使おうが使わまいが、隅々まで小ネタを仕込んで語ってもらおうとする姿勢は現代のポップカルチャーでは変わらないのだと思った。今作の、世のサブカルチャーファンに手揉みしてバズろうとする姿勢が透けて見える感じが薄ら寒かった。

そういうオマージュを装飾のみならず本筋にも採用しているので、「これ知ってる」な展開が続く。かのアニメ表現のみでラストまで走り抜けられると思ったのなら、はっきり言って怠慢だ。

今作はマルチバースでも何でもなく、とても直線的で明快なエンタメだけど、今作を観たことで過去のマルチバースものにハマれていない人々の気持ちが遡及的に分かった気がした。
「NWH」「エブエブ」「アクロス・ザ・スパイダーバース」。そのような人たちは、こちらが追いつかないような情報量をザザザと流すことで情報の濁流に溺れる快感を得たような気にさせるスタイルが、SNS大量消費時代に迎合しているようでノれなかったのではないか。
自分はTikTokのことは知らないので受け売りだが、あれが世を席巻した理由はザッピング(何もしなくても次から次に動画が流れてくる仕様)のおかげらしい。即物的な、「バズる」ためだけに作られた虚無が眼前を流れていく虚無の空間こそがこの時代にはお似合いのよう。だからと言って、わざわざ安くない鑑賞料を払ってわざわざ座席に2時間拘束されにきている観客に向けてそんなことをする必要は無いのよ....と思った。

それとは別に、物語の決着の付け方にも疑問が残る。
タートルズは明確に差別・迫害の対象としての存在だが、その懊悩が一人の提言でオセロのようにパタパタひっくり返るのは、盲信というか今作のフィクションラインとはまた違う夢物語でゾッとした。細田守作品のような居心地の悪さ。敢えて現実と地続きの現代のニューヨークを舞台にしてやることか?と思う。深刻で根強い差別意識が根絶できない社会なのに。不誠実だと思ってしまった。
もしかしたら「たった一つの意見にすぐ流される市民のジャーナリズム意識」を馬鹿にしているのかと0.1秒だけ思ったけど、だとしたらエイプリルの夢があまりに不憫になってしまうので絶対に違う。

『~ スパイダーバース』は色々あってもマイルズのオリジンに収束する分かりやすさが好き。同監督の『ミッチェル家とマシンの反乱』は好きだった。『バッドガイズ』も面白かったし『長ぐつをはいたネコと9ての命』は今年ベスト。
今作は面白くはあったけど、今風の派手な何かがさらさらと流れていったような薄味さに心が動かなかった。一年前に比べて自分が面倒くさくなっただけだと思います。

【余談】今年だけで『長ぐつをはいたネコ ~』『~ アクロス・ザ・スパイダーバース』『ミュータント・タートルズ ~』そして『ウィッシュ』とこのテのアニメーションが目白押し。『トイ・ストーリー』台頭後のCG映画が普及した世界のように、今は『~ スパイダーバース』台頭後の世界になっている。
Ren

Ren