YAJ

湯道のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

湯道(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【湯 Make Me Happy】

「循環されたお湯に入るほどヒマじゃない!」
 登場人物のかけ流し至上主義の温泉評論家(吉田鋼太郎)が言ってのける。

 とはいえ、かけ流しは極めて贅沢なことは衆知。観光業が落ち込んだここ数年は、採算と衛生、風評、さらに昨今SDG‘sなんかも絡んできて、いろんなものと格闘してきた経営者も多かったはずだ。
 そんな最中の福岡の温泉旅館の前社長の自殺のニュースは、少し悲しい気持ちになる。公衆浴場法令違反は勿論あったが、単純にその老舗旅館だけの話として割り切れない感触が残る。さらりと、“湯”に流せない気分・・・。

 そんなニュースが飛び交う日に鑑賞した本作。
 この手のオールスターキャストな、お手軽コメディは、それが邦画であればなおさら、観ないものだが、ことテーマがお風呂とあっては、我が家としてはハズせない。

 そして鑑賞後は間違いなく銭湯通いだ。
 「整う」なんて言葉が流行語になり、若者のサウナブームを背景に、昨今の銭湯もおおいに賑わっている。「サ道」(サウナ道)なんて言葉も出始めたものだから、2015年から「湯道」を提唱してきた家元・小山薫堂も慌てたことだろう( https://yu-do.jp/about )。

 本作のなかでは「湯道」を提唱する一団を、ちょっとふざけたカルトな集団として描いて笑いの要素に使っているが、世界的に見ても稀有な入浴文化を誇る我が国の生活習慣が、「湯道」を通じて、正しく発展、維持継続されていくことを願ってやまない。

 また作品のマドンナ的存在である橋本環奈演じる「いずみ」(おそらく温泉の“泉”から来ている名だろう)のモデルが、斯界では有名な塩谷歩波さんというのも我が家的には嬉しい話。
 彼女の著作『銭湯図解』は勿論読んでいるし、彼女が番台にいた頃の小杉湯もご愛顧の湯のひとつだった。映画の原案・脚本小山薫堂とは『銭湯図解』の出版を機に対談なども行っており、それがご縁でのことだろう。
 仕事のストレスから心身を病んで、その立ち直りに銭湯の交互浴が有効だったという彼女の教えは、まさに御意(そのエピソードが橋本環奈のセリフとしても語られる)。

 我が家も、銭湯に行くなら水風呂があるところ、が鉄則となっている。其、我が家の「湯道」也。



(ネタバレ含む)



 話は、あってないようなもの。というか、予告編を見れば、あーしてこーしてそうなるのね、という凡その予想内に安着する。なんのサプライズもない、それこそ小杉湯のミルク風呂のような38~39℃のぬるま湯な作品だ。詰め込まれたエピソードは豪華出演陣の数だけあるという点は、スーパー銭湯並みに豊富なバリエーションだったと評価しておこうか(予定調和の域を出てはいない)。

 湯船で歌うお客に、演歌歌手の天童よしみと、そのハーフの息子にクリス・ハートを起用した点は面白い。エンディングテーマも、♪湯 are My Sunshine~♪と演者全員で謳いあげるのもハッピーでよろしい。

 寺島進・戸田恵子夫婦もいかにもな配役、エール窪田の湯道家元・内弟子っぷりも板に付いていたし、小日向さんも柄本明も余人を以ってなんとやら。夏木マリの登場だけは少し意外だったか? お風呂映画『テルマエ・ロマエ』でも平たい顔族として出演していた佐野高史の存在もお約束。彼と吉行和子の老夫婦のエピソードにはホロリとさせられた。とはいえ、ハマっていると言えばそれまでで、故に新しい妙味に欠けるという退屈さは否めないのだ。カメオ出演の家元の存在、私は気づけたよ。

 お風呂映画は、上記『テルマエ~』(2012)の他、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)、『メランコリック』(2019)、『サウナのあるところ』(2019)と過去いくつか鑑賞している。本作『湯道』の面白さは?評価は? ・・・かろうじて『テルマエ』超えと言ったところか。

 先細りが懸念される銭湯業界、それをモチーフとしながら、明るい前途を描けなかったのは残念である。その点は、湯道家元としても、いかんともしがたいところなのかもしれない。
 我が家至近だったご町内の銭湯が去年閉湯し解体された跡地に、まもなく4階建てのマンションが完成する。1階に風呂屋が入ればと期待したが、ショーウィンドウチックな大きなガラスの扉が付いた外観を見て、寂しい気持ちを日々募らせている。

 これも日本の銭湯の歩む道、湯道なのだろう。This is a way・・・(←別の作品だって・笑)
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