SANKOU

ファミリアのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ファミリア(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

外国人労働者にとって日本は決して住みやすい国ではないのだろうなと考えさせられる。
低賃金や劣悪な労働条件で彼らを働かせる詐欺紛いの会社も多いと聞く。
もし外国人労働者がいなくなったら、回らなくなる業種も多いはずなのに。
あまりにも理不尽な待遇を受け続け、反日感情が芽生えてしまう外国人労働者もたくさんいるはずだ。
ジャパニーズドリームなど真っ赤な嘘だと。
この映画に登場するブラジル人移民のマルコスやエリカも、そんなジャパニーズドリームに裏切られた犠牲者だ。
マルコスの父親は不景気を理由に会社からクビを言い渡され、団地の屋上から飛び降りて亡くなった。
マルコスの境遇は本人の力ではどうすることも出来ない。
彼は仲間を庇ったために、半グレ集団に目をつけられてしまう。
どこにも逃げる場所なんかない。
追手から逃れる途中でマルコスは、焼き物を生業とする誠治とその息子学に助けられる。
日本人に対して好意的な感情を持っていないマルコスはその場から逃げ出してしまうが、後日エリカが御礼を言いに工房を訪れる。
この笑顔を絶やさないエリカの存在に救われる部分は多い。
そもそも底抜けの明るさはブラジル人の気質なのかもしれないが。
やがてマルコスとエリカと誠治の間に、人種を越えた絆が生まれていく。
これは人種と国境を越えた家族の物語である。
学はアルジェリアで出会ったナディアと結婚をする。
彼女は紛争によって両親を亡くしていた。
学はアルジェリアのプラントに勤めているが、会社を辞めて焼き物で生計を立てたいと誠治に打ち明ける。
しかし誠治は学の望みを退ける。
焼き物では食っていくことが出来ないと。
誠治は妻が病に倒れ亡くなったのは、金にならない焼き物に自分が熱中し過ぎたせいだと思い込んでいる。
そしてその後悔から、学には同じ轍を踏んで欲しくないと望んでいるのだ。
しかし結果的には、学はすぐにでも工房で働くべきだったのだろう。
この映画の中ではこれでもかというほど理不尽な暴力が振るわれる。
マルコスと幼馴染みのルイは何度も半グレ集団からリンチを受ける。
そしてアルジェリアに戻った学とナディアは、テロリストたちの襲撃を受け人質にされてしまう。
何故人は争うことを避けられないのだろうか。
誠治は学を救うために身代金を用意するが、政府はそれを受けとることが出来ない。
たった一人の息子を助けたいと願う誠治の必死の願いはもちろん分かる。
しかしテロに屈したら、また同じような犠牲者が出る可能性が高いわけで、何としてもテロリストの要求には答えられないという政府の姿勢も責めることは出来ない。
結果的に学もナディアも帰らぬ人となる。
悲しみに打ちひしがれる間もなく、誠治はマルコスとエリカが置かれている絶望的な状況に巻き込まれていくことになる。
マルコスは半グレ集団の理不尽な要求によってお金を用意出来なければ殺される。
そしてエリカは薬漬けにされてソープに売られてしまう。
彼らを救うために立ち上がる誠治の姿に、イーストウッド監督の『グラントリノ』が重なって見えた。
この映画を観て一方的な被害者は存在しないのだとも思った。
半グレ集団のリーダー海斗は、酔っ払った在日ブラジル人の暴走によって妻と娘を亡くしていた。
彼は復讐心からブラジル人を特に敵視していたのだ。
そもそもの原因は日本のブラジル人移民への待遇の悪さにあるのかもしれないが。
絶望の中にも絶対に光は存在する。
僅かでも光があれば、人は笑顔で前に進むことが出来る。
学がマルコスに言った「夢を持つことはこわいことじゃない」という言葉がとても印象的だった。
本人のせいではなく、逆境に立たされている人はたくさんいる。
しかしどんな人生でも夢を持つことは出来る。
たとえ、悲しい結末を迎えようとも、夢を信じて突き進む人生は決して間違いではないと思った。
在日ブラジル人だけでなく、国際的なテロリストの問題まで話を拡げるのは少しやり過ぎかなとも思ったが、観終わった後に考えさせられる部分がとても多かった。
そして国際的な不穏な空気が流れる今の世の中だからこそ、人を無条件に信じて、助けられる心の大切さを改めて考えさせられた。
SANKOU

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