SANKOU

新感染 ファイナル・エクスプレスのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

改めて韓国映画のドラマの組み立ての素晴らしさを実感する作品だった。
日本でも『アイアムアヒーロー』のようなゾンビ映画は作られているし、映像のクオリティなどは決して海外のゾンビ映画にも引けを取らないと思うのだが、どうしても設定の部分だけが目立ってしまい、人間ドラマが疎かになっていると感じた。
しかしこの作品は人間ドラマがしっかりしている。
そしてもちろん設定も素晴らしい。
ゾンビの発生はいつだって唐突だ。
登場人物たちは訳も分からずただ荒れ狂うゾンビの群れから逃げるしかない。
時速300キロで走る高速鉄道の車輌の中で起こるドラマというのも、緊迫感と閉塞感があって最後まで目が離せなかった。
この映画に登場する人物は二種類に分けられる。
自分だけ助かろうとする者と、人を守るために闘う者だ。
ソグも最初は前者だった。悪徳投資会社で働く彼は自分の利益のことだけしか考えていない。
妻とは離婚し娘のスアンと母親の三人で暮らしているが、彼は娘の誕生日のプレゼントに購入したゲーム機が、以前にもプレゼントしたゲーム機であることも覚えていない薄情な男だ。
感染爆発が起きたと知った時も、まず彼は自分と娘だけが助かる道を探そうとする。
そしてスアンにそんなだから母は離れてしまったのだと悲痛な叫びを浴びせられる。
ソグと正反対な人物として描かれているのが、強面だが気の優しいサンファだ。彼は妊娠中の妻ソンギョだけでなく、危険を犯してもスアンや他の乗客を助けようとする。
次第にソグもサンファに影響を受けて、人を守るためにゾンビと闘うことを決める。
ソグは確かに自分勝手だが、娘への愛情は本物だ。
ゾンビの描写がかなりグロテスクで、ちょっと前までは同じ人間であったとは思えない動きがショッキングだ。
だが暗闇になると途端に活動が鈍くなり、音に反応して見当違いの方向に走り出す姿はまるでコメディのようだ。
この相反する恐ろしさと可笑しさが絶妙に交わっているのが面白かった。
自分のことだけしか考えていない連中には罰が下されるが、本当にしぶといのはいつも身勝手な人間だ。
次々と主要人物がショッキングな最後を迎えるが、終盤に向かって皆が大切な人を守るために行動を起こそうとする姿には胸を打たれた。
ラストまで気を抜けない展開で、ラストシーンも含めて記憶に残るゾンビ映画になった。
車輌に乗り合わせた年配の姉妹が印象的だった。姉はゾンビになってしまうが、妹は姉のこれまでの人生の不憫さに涙をし、彼女を車輌に招き入れようとする。
ドアを開ければ自分だけでなく他の乗客も犠牲になることは分かっているはずで、彼女の行為はとても身勝手なのだが、何故か彼女の想いに同感してしまった。
邦題の『新感染』はインパクトは強いがかなり俗っぽい。
原題の『釜山行き』はとても意味深でお洒落に感じた。
SANKOU

SANKOU