かじドゥンドゥン

少女は卒業しないのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
1.8
山梨県のある高校。卒業式前日から式の後にかけての、いくつかの物語。

ゴトウ・コトミは、卒業後は上京し、心理学を学んで、そのまま東京で関連職に就くことが夢。その決意は固い。他方、交際相手のテラダは地元の大学に進学し、地元で教師になる予定。進路の食い違いが、別の些細なことでのケンカとなって噴出し、気まずい状態。友人のクラハシに、ケンカ別れは良くないと諭されたコトミは、卒業式の日に一緒に登校しようと歩み寄るが、上京行きを決めた彼女への苛立ち、そしてその決断を応援すべき立場なのに応援できない自分への苛立ちに、テラダは苦しむ。いったんはコトミを拒絶してしまったテラダだが、式の後に謝ると、今年で取り壊される校舎の屋上で、念願の花火をする。

軽音部卒業ライブのトリを誰にするか投票を募った結果、音も歌も当てただけのヘビメタバンド「ヘブンズドア」が断トツ。これは明らかに、一部の男子が面白がったいぢり。他の有力バンドのサクラガワは激怒し、ヘブンズドアの下級生メンバーは恥をかきたくないと出演辞退。3年生のボーカル(とはいえ歌っていない)のモリサキが一人で出演することに。そしてライブ当日。中学時代からモリサキを知る部長のカンダは、彼が部室でときおりひとり歌う声がずっと好きだった。自分の声で歌うかつてのモリサキに戻って欲しい、そう願ったカンダは、彼の衣装や道具一式を隠し、彼が自分の声で勝負するしかないように追い詰める。するとカンダは、自らの声でバラードを歌い上げ、聴衆を魅了する。

地味な女子サクタは、人と巧く話せず、いつもクラスで浮いた存在。彼女の唯一の居場所は図書室だった。卒業式の前日も、図書室で先生と話してばかりいる。その若い男の先生も、同じようなタイプの生徒だったらしい。先生から、クラスの誰かに自分から話し掛けてみて、なおかつ、相手の言うことの同意しないというささやかなミッションを授かったサクタは、クラスの女子生徒がある映画のタイトルを思い出せずにいたところに介入し、なおかつホラー好きだという彼女に同意せず、ミッションをクリアする。結局気まずい空気で終わったものの、彼女のなかで、大きな一歩を踏み出した。卒業直前になってなぜ変わろうと思ったのかと先生に尋ねられたサクタは、自分よりも大きな苦しみを負っているヤマシロが頑張っているから、と答える(この件は後述)。卒業式の後、何人かに貰った寄せ書きを先生に見せるサクタ。そして、ずっと借りっぱなしだった(しかし返せと催促されなかった)小説を、先生に返す。そして、実は彼女が同じ小説を買ったと知ると、先生は、借った方を自分が受けとり、貸してあった自分の本をそのままサクタに持たせる。

ヤマシロ・マナミは、卒業式の前日、料理部の腕を活かして、作って来た弁当を調理室でシュンに振る舞う。シュンは、毎回弁当に入っている国旗を集め、調理室に並べている。国連本部のエントランスのように、万国の旗を並べるのが目標。卒業式当日、卒業生代表として指名され、誕生に登ったマナミは、胸が詰まり、答辞の言葉が出て来ない。フラッシュバックするのは、窓を清掃中に落下し死亡したシュンの姿。そのとき彼女は階段を駆け下り、泣き叫びながら彼にすがりついた。卒業式の後、誰もいない体育館で、シュンの幻影と対峙するマナミは、ようやく答辞を読み上げる。新しい世界へ進む決意。そしてそんな自分を見守って欲しいという願いの言葉は、シュンへの未練との決別でもある。