中年のタクシードライバーのシャルルが乗せた92歳のマドレーヌは、自宅から終の棲家となる老人ホームに向かう。思い出の場所を巡りながらパリを横断する道中に語った彼女の人生は衝撃的で、二人は生涯を振り返る道のりをともにする同志のようになっていく。
もっと軽い作品かと思って見始めたら予想外の展開になったが、マドレーヌの波乱に満ちた人生に引き込まれていくシャルルとの関係の急速な変化は十分楽しめた。
たまたま出会った二人がヨーロッパの美しい街で一日をともに過ごすうちに関係が深まっていくのは、恋愛か否かという違いはあるにせよ『ビフォア・サンライズー恋人までの距離』(1995)と似たドラマチックさを感じた。
マドレーヌの人生を「狂わせた」ろくでもない男と対照的に、初恋の人で愛息の父でもあるアメリカ兵の思い出を支えに彼女は生きてきた。ナチス・ドイツからパリを解放した連合国軍の一員だった彼と、全編に流れる古いジャズ・ボーカルを通じてアメリカ的なものが美化されている感があるが、この兵士は17歳のマドレーヌを捨ててさっさと母国に帰って家庭を持ったわけで、彼女が人生をかけて復讐したDV男と大差ないように思える。
〈以下、結末に関する記述〉
二人の長い一日のドラマには清々しさを感じたが、ほどなく他界したマドレーヌがシャルルに財産を残した結末は蛇足だと思う。そんなものがなくても、マドレーヌとの一日はシャルルの人生に大きなものを残したはずだ。
(2024.9.21)