20052010

フィラデルフィアの20052010のレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
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1993年のアメリカでエイズ患者と同性愛者への差別と偏見がこれほどだったことに驚くが、そういえば同じ時代のアメリカを舞台にした村上龍監督の『KYOKO』(1996)にも同じような描写があり、歴史的事実である。
それから約30年、エイズという疫病とセクシュアル・マイノリティへの差別は世界的にかなり克服され、アメリカはこれを牽引した国のひとつだ。別の差別や後退した面も多々あるにせよ。

不当解雇の撤回をめざすアンディ(トム・ハンクス)に力を貸す弁護士ジョー(デンゼル・ワシントン)も世間と同じく偏見に囚われており、そのことを認めているが、それでも不公正と戦ううちに偏見から自由になっていく。個人的な心情や価値観と相容れなくても「法の支配」を優先させるのは、『KYOKO』にも「日本人は嫌いだが違法な差別は許さない」と言う老弁護士が出てきた。
正義の実現を直接担うのは市民から選ばれた陪審員で、これは『十二人の怒れる男』(1957)を思わせる。陪審の場面は短いが、法廷で審理を見守る12人が再三映されていたのが印象的だった。

正義を求める闘いを描く骨太な作品であると同時に、登場人物と俳優の魅力、ストーリー展開などエンターテインメント性もあり、見応えがあった。
題名であり舞台であるアメリカ独立の地フィラデルフィアは「友愛(brotherly love)」の町とされ、本作のテーマを象徴している。冒頭でこの町の様々な情景とブルース・スプリングスティーンのStreets of Philadelphiaが流れるトラディショナルなタイトルバックも素晴らしい。

蛇足だが、アンディがジョーに「あんたは祈ったりするのか?」と尋ねた場面で、祈るのは娘と妻の健康、それにフィリーズの勝利と答えたのが野球ファン的には嬉しい(日本語字幕では「チームの勝利」となっていたが)。ちなみに93年にフィリーズは10年ぶりのリーグ優勝を果たしている(ワールドシリーズでは敗退)。
(2024.9.17)
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