拳銃を所持したままで放浪する訳ありの青年（三宅優司）が、潜伏先として選んだ洋館にて、愛欲蠢く人間模様を垣間見ていく。企みを秘めた人間たちの"性と死"を描いている、新東宝配給のピンク映画。

唐十郎主催の状況劇場に出演して、暗黒舞踏の道を極めた麿赤児が、監督を手掛けている作品。窃視行為と犯罪嗜好癖の要素が含まれており、乱歩の影響が見受けられる。そして、アングラの演出家が、いかにもやりそうな雰囲気作りに満ち溢れている。

主人公が辿り着いた洋館では、館主（大杉漣）が住民たちの性生活を傍観。女体の起伏を仔細に捉えたカメラワークが印象的であり、刺青女（花真衣）の踊りっぷりが芸術の領域に達している。江戸春画のような趾（あしゆび）の反りっぷりも素晴らしい。

一応のところ、「洋館の内部では何が起こっているのか」というサスペンスが動き出すが、基本的には雰囲気重視のアングラ劇場に収まっている。「究極の快楽は非道徳的行為の中にある」というバタイユのエロティシズム論が美しい。

ある古い邸宅でしばらく住むことになった青年が同じ家に住む住人の奇妙な生態を知っていくうちにある騒動に巻き込まれていく様子が描かれるポルノドラマ。あらすじは一応書いたものの主人公をはじめ登場人物はみな何を考えているのかわからないまま日常を過ごしている奴らばかりで、そんな連中がウダウダやっているうちに観客に説明がないまま唐突に事件が巻き起こり理解できないままエンドマークが突きつけられるので困惑することに(この映画を取り上げたサイトではあまりにもストーリーが理解できないので想像で書くことに)。演劇人でもある監督・麿赤児の劇の趣向であるあらすじよりも人を驚かせていくというスタイルが良くも悪くも出ている作品で、万人には向かないものの奇妙な作品をたまにはみたいという通好みな作品に仕上がっている。

物語の構造は下層にいる人間の生々しいエロとその生活模様を覗いていくというポルノ映画らしい図式にはなっているが、いかにも安価な美術や部屋なのにどこか品がありクラシックな趣を感じさせる麿氏の演出が見事で、単なるポルノと切り捨てるには惜しい豊かな味わいを堪能できる。長田勇市による非現実を意識した撮影も風情があり、『しとやかな獣』を彷彿とさせる覗いているかのようなカメラワークもドラマにスリリングさをもたらす。

ただ後半のどんでん返しがあまりにも突然すぎて理解が出来ず、持ち味も含めて映画の面白さへと繋がらずただのギミックで終わっているのが残念。もしこれが舞台だったら色んな余韻を残して観客を魅了するのだろうけど。

それでもラストの複数の女性が円の構造で並び、それを真上から捉えて回転していく変な撮影は見物。

屋敷の女主人の弟と名乗る男を演じる大杉漣による麿氏の演出プランを理解した演技が印象的で、オーバーアクトをおさえつつ変な演技をしていく様は後年の北野武作品や黒沢清作品を思わせる。

女主人を演じる女優さんがとてつもなく棒で、コントのときの内村光良のようなしゃべり方をするので変な笑いが起こり困ってしまう。前半の変な女性キャラはまだいいとして、後半のシリアス展開だとひたすら浮く羽目に。

古い屋敷の雰囲気や繋がらないカットなどに出演したことがある鈴木清順監督の影響を、銃への扱いに同じく出演した大和屋竺への影響をそれぞれ感じさせる。

(過去観賞済み)
心に残る幾つかの場面。もう一度観たい。