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わたしの魔境の消費者のレビュー・感想・評価

わたしの魔境(2022年製作の映画)
2.3
・ジャンル
ドラマ/ドキュメンタリー

・あらすじ
新卒社員としてとある企業に入社した女性、湯川華
しかし入ってみると面接での説明とは異なりそこはマルチ商法を行うブラック企業だった
たまらず彼女は上司に詰め寄るがまともに取り合われずモラハラ紛いの説教を受けてしまう
更に心配して相談に乗ってくれたはずの先輩社員は体目当てだった
そして無断欠勤をしたある日、その先輩に華の家に押しかけられ挙げ句の果てにレイプまでされてしまう
すり減り切った心は次第に病んでいき亡き母の亡霊を見るまでに
すっかり絶望の淵に立たされた華は救いを求めてネット上で出会ったニルヴァーナというヨガサークルに入るのだが…

・感想
“りぃちゃん”の愛称で親しまれた元NMB48の人気メンバー近藤里奈を主演に据えて製作されたオウムをモデルとするカルト教団の闇を描くドラマ作品兼ドキュメンタリー
ドキュメンタリーパートではオウム(現アレフ)から分裂した上祐史浩の主催する団体“ひかりの輪”の信者や上祐本人、被害者救済団体の僧侶、オウムに潜入取材した経験を持つルポライターの村田らむ、信者で今は亡き死刑囚の新實の妻など様々な関係者へのインタビューがされている

悪名高い地下鉄サリン事件を筆頭とした教団の凶行が明るみになった後のオウム真理教に密着取材したドキュメンタリー「A」とその続編「A2」はかなり考えさせられる内容で事件の被害者のみならず信者達もまた被害者であるという視点が色濃く見られる興味深い作品だった
それに対して本作は色々な面で中途半端だったというのが正直な感想

実在のカルト教団の闇に踏み込む以上、その実情や背景からそこに秘められた本質まで追求していく必要があると思う
しかし本作ではドラマパート、ドキュメンタリーパートの両方が共に薄味
冒頭のブラック企業も過剰に露悪的に描かれていてリアルさに欠けるし教団に入信してからの流れも駆け足で進んでいくので臨場感や緊迫感も無い
更に掘り下げるべき部分の大半をドキュメンタリーパートのインタビューに任せっきりにしてしまっているので学校で見せられる様な安っぽい教育ドラマの域を出ない
その肝心のインタビューも元信者達を中心に改めて振り返る話が大半を占めてはいるが不要な部分がかなり多く感じられた

加えて構成の雑さも目立った
ドラマとインタビューが交互に流れる事自体は悪くない
何が問題かと言えば一番描くべきである主人公の華と共に入信した同僚の井上
この2人や他の信者達の心の動きや課される行動のエスカレート等を見せてくれるかと思うタイミングでインタビューに移行してしまう点
それが結果としてどちらにも入り込みづらくさせていて悪手としか思えなかった
時々挟まれるメディア及び広告に批判的な画像もドラマとドキュメンタリーのどちらともしっかり噛み合っていない
結局何が言いたいのかが見進める毎に分からなくなっていった

クラウドファンディングを行なっていた段階から本作の事は知っていたから予算面で難しかったというのは分かる
とはいえあまりにも陳腐でちゃち
教団の道場も小規模な1つの施設しか出て来ないし“グル”がほぼ常駐している事を考えると本部に近い場所であるはずにも関わらず台詞上でのセミナー参加者数や行方不明者の多発等でしか規模の大きさが見えて来ないというのもいかがな物かと…

また本作とは別に腑に落ちない事もある
それはこういう小規模な作品でオウムを扱う事が出来るのに大規模で詳細な作品が今に至るまで何故ほぼ出て来ないのかという疑問
題材が題材だけにリスクはあるかもしれない
それでも風化させない為に絶対誰かが扱うべき事なのは確かだし実際製作されればそれなりに観る人はいるだろう
そもそも時々テレビの特番で再現V等は作られているのだから不可能とは到底思えない

近頃は本作でも軽く触れられていたコロナの影響もあって陰謀論やスピリチュアルの人気がかなり高まっている
実際、神真都Qの様な過激派団体も発足されていたし、政府と統一教会や創価学会との蜜月関係も明らかになった
相次ぐ災害や芸能人の自殺、数々の性加害の報道…
そういった社会問題も山積み
いつまたオウムの様な終末論カルトが出て来るか、という脅威は現実の物としてある
だからこそもっと真摯に作り込んで欲しかった
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