Masato

福田村事件のMasatoのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0

今見るべき作品

関東大震災、そして福田村事件からちょうど100年後にあたる日に公開された社会派ドラマ。デマにより集団ヒステリーを起こした村人たちをドキュメンタリータッチで描く。

歴史的な知識を求められるポリティカルな映画かと思っていたが、蓋を開けてみると描いていることは非常に単純明快で分かりやすい映画だった。作り手が何を伝えたいのかがハッキリしていて、それをしっかり物語に落とし込めているから無駄がなくキレイ。分かりやすすぎて逆に味気ないくらい。

全体を通して鈍重で野暮ったさは否めないが、丁寧に着実に物語を隅から隅まで描いているので不足感は全く無い。デマによって凄惨な事が起きてしまった福田村事件がどのようにして起きたのか、そしてなぜ起きてしまったのかを分析し、さまざまな立場の各登場人物のドラマにして淡々と並べていくことによって徹底的に描いている。

当時の日本政府やマスコミがデマを流布したということ。それが口火となって自警集団が組織され、それらによる私刑が起きた。そのデマの背景には日本統治下の朝鮮における独立運動や労働者のストライキ、また社会主義の台頭による思想運動があった。日本政府は関東大震災という大混乱を利用してそうした反乱分子を国民の敵であるとレッテルを貼ることで世論を味方につけようとする思惑があった。あまりにも酷すぎる世論操作。今もこの虐殺は「記録にない」なんて官房長官が言ってるんだから呆れる。まるで変わっていない。

うちの祖母も戦後は街で朝鮮人が暴れまわっていたと何度も話していていたが、それも本当はどうだったのだろうと他人事ではない状況で考えさせられるし、当時の朝鮮の人たちがどうしてここまで怒っていたのかがよく分かるようになっている。というかあまりにも知らなさすぎた。日本の負の歴史を伝えてきてないあたりに日本の教育の闇を感じる。

日本政府はこうした虐殺が起きるほどの集団ヒステリーが起きることを想定していなかったのも事実であり、意図せず加熱しすぎた結果のほんの氷山の一角が福田村事件である。そして100年経っていてもまるで変わっておらず、四国の方言も分からないような孤立した村であっても、ネットに情報が溢れて情報過多な現代社会においても人間の集団心理がそうであるようにどんな時代でも起きる普遍性を本作は強調している。ネットにおいてエコーチェンバー現象で生まれた閉鎖空間は、福田村と何ら変わりない。

また、心の奥底にある不安や恐怖はもちろんのこと、日常の不満までもが差別や集団ヒステリーに密接に繋がっていくこともしっかりと描いている。これが福田村の人々のドラマをしっかりと描く理由にあたる。混乱や怒りのなかではすべての累積された不満の感情が一気に放出されて暴走していく。その怖さが垣間見れた。

決して他人事には出来ず、情報の側面においても集団のなかにおいても、なにが正しいのか、どうあれば良いのかと常に懐疑的であることの大切さを考えさせられる。今でも自警行為というのは形を変えて存在している。もし自制が効かなくなれば自分も"そちら側"に行ってしまう怖さを多分に孕んだドラマだった。


100年前の歴史が訴える、非常に普遍的な政治や人間の怖さを描いた映画。必見。
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