Ayakashd

福田村事件のAyakashdのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.5
何より怖いのはこういう映画が作りにくい環境である、ということ。真正面から取り上げる勇気と実現までこぎつけた胆力に本当に敬意を示したいです。

劇映画初監督、ということもあり、一定は説明的であったり、メッセージ作りが割とあからさまでわかりやすかったりするところがあり、その辺は割り引いて見たかなー。

この作品における福田村事件は、最終的なクライマックスであり、関東大震災を機に表出した様々な構造的差別、権力と民衆の暴走を描くのが主眼だったかなと。なので、ある意味では教科書的に、部落差別、韓国併合と韓国・朝鮮民族への差別、そして社会主義者の排除を順に見せていく構成だった。

これらのことをだんだん語りづらくなるこの環境下で、ここまで隠さずに取り上げたこと、丁寧に一つ一つ触れていったことが素晴らしいと思った。

一方で、
冷静に対処しようとした社会主義者が処刑され、シビリアンコントロールが概念上は成立するはずだった文人の村長と井浦新が敗北し、この後の太平洋戦争までに日本がたどる道筋をまんま示して、救いがない終わり方…でよかったと思うのだが、ジャーナリストでもある監督のメッセージなのか、希望なのか、最後にあの新聞記者が唐突に出てきて、ジャーナリズムが希望を引き取るあたりがちょっと恣意的だなとは思った。
実際に起きたことは完全に暴力の勝利だったわけだから。戦争で負けてなければどうなったことかと本当に恐ろしくなったよ。

水道橋博士の役柄が、日本の軍部のイヤーなところと老害を煮詰めて煮詰めて凝縮したような役柄で、ほとほと嫌になったけど、いまの政治上層部とさほど変わらんのではないかと思うとまた背筋が冷えるのであった。。。

ああいう人が一人いたから起きた。ということでもないし、田舎の農村で民衆にリテラシーがなかったから起きた。ということでもないし。今と違って差別が根深かったから起きた。ということでもないし、安易に片付けられない怖さがある。

今客観的に見ると「どっからどう見ても頭おかしいじゃん」という展開ではあるのだが、今起きないか?明日起きないか?と言われると返す言葉がないような…

そんな怖さを感じる素晴らしい映画でした。
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