ごんす

福田村事件のごんすのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5
扱う題材は福田村事件ではあるけれど人間が社会的な生き物である以上流言飛語はなくなるとは考えられず現在も未来も起きてしまいそうな話。

群像劇のスタイルを取っていて不倫や性愛の物語の部分が長いようにも感じたが差別の問題と密接に関係している集団心理についてより現代の人々にも当事者意識をもって観ることができるように思う。
それでも性愛の部分で物語が動くことが多すぎるように見えてしまったので少しモヤモヤした。

村八分、いじめなどはSNSのある現代の方がより過激だと思うし若い世代にもこの風習を継承させてしまっていると感じた。
差別、いじめの根底には恐怖の感情があってなぜ怖いのかはその人のことを知らないからだと思う。
自分達が知らないものが入ってくると集団の調和が乱れ生存率が下がるから排除した方が確実。
この今の今まで受け継がれてきた本能のようなものに抗うことは簡単ではないが知ることはできる。

フィクションでもドキュメンタリーでも史実から着想を得た心を揺さぶられる作品に出会うと「知れて良かった」で終わらせず知った上でこれからどう生きていくのかと問われる気がする。

行商団の子供が悪気なく聞く「わしらと朝鮮人どちらが下なのか」に象徴されるように弱い立場の人が更に弱い立場の人を見つけようとする構造はやはり現在も変わっていない。
村人も根っからの悪人というわけではない。
良いやつも嫌なやつもいる。
嫌なやつも怖くなるとすり寄ってきたりもする。
しかし極悪人など出てこなくても最悪なことは起こる。

最高レベルの役者が多かったが木竜麻生、コムアイ、水道橋博士が印象的だった。

特に木竜麻生は『わたしたちはおとな』で主体性がなくて大丈夫かと思わされる女の子を体現していたし『Winny』では添え物のような若い女性キャラクターを見事に演じていたが今回はそれらとは真逆に意志的で眼差しの強い役に挑んでいた。
見たものを書くなと言われる若い記者が
それでも伝えなければならないという強い志で立ち向かう様が凄くハマっていたと思う。


終盤、恐怖から団結した者達が「やっぱり鮮人だろ!」と詰めるのに対して必死に「この人達は日本人です!」と訴える。
「日本人殺すことになってもいいのか!」と迫真の演技もあって引き込まれ一瞬おかしなことを言ってるのを忘れる。
その後の「朝鮮人なら殺してもいいのか」という台詞が直接的すぎて驚いたがやはりこれは言って良かったと思う。


殺された人達には「ちゃんと名前があるんです」と語られる。
この映画を観て一人一人が色んな考え方をするように“虐殺によって命を落とした人達”という括りではなく一人一人の命、人生がたくさん奪われた。
そう感じた。

この映画を観てから「それは丘の上から始まった」という本を読んでみて、また映画を観てみた。
情報が無く孤立した時にどれだけ自分は冷静でいられるか。
2023年鑑賞した映画の中で一番好きというわけではないけれどこの『福田村事件』は一生忘れられない映画体験でした。
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