このレビューはネタバレを含みます
森達也監督の感情が、画面からほとばしっていました。
ジャーナリストの人物が監督の姿に被り、姿勢や気概、精神性が色濃く作品に反映されていたと思います。
また終盤のシーンは、セリフや人物達の言葉に迫力あり、心に響きます。
表現が徹底的で、観ていられない程に熱を帯び、監督の怒りが最もダイレクトに感じられた、クライマックスシーンでした。
初めて森監督の作品を観ました。
ドキュメンタリーを多く撮っているから、長回し主体でふわっと撮るだろう。
勝手に想像した思惑も、良い方向で裏切ってくれました。
今作品、事が始まるのが結構遅いんです。
事に至るまでの積み重ねが作品の肝なのです。
しかし、長いは長いんです。
他の監督だったら途中で寝てしまったかもしれません。
森監督の映像は、無駄が無くとても観やすい。
適切に情報を整理してカットを切っている気がして、ダレる事が少しもありません。
ショットは正確に情景を捉え、スクリーンに美しさを残します。
映像的にも、大変満足できた作品です。
今作品、主人公役がいません。
複数人物の目線を平行して描く事により、様々な視点で事件を観測すると言う狙いであれば、強烈に刺さりました。
虐げられる側に、朝鮮との何らかの接点があるのも特徴的です。
虐げる側も、無感情ではありませんでした。
むしろ、知らず知らずに恐怖を植え付けられていた事が判明します。
複雑な構成を、解りやすく纏める脚本も良かったです。
鈴木慶一さんの音楽が、場面に強く彩りを添えてくれました。
特に事件が始まった時に流れる音楽が、これまた辛い。
坂の上にあった車が徐々に加速して下り出し、気が付いたら誰も止められない。
堰を切った様に暴徒化する光景に、これほど切なくマッチする音楽は、圧巻でした。
これは映画です。
観てると言う認識があるため、善悪の分別は付きます。
だけどもし。
もし自分が当事者の一人だとしたら……。
正直、非常に怖い考えが頭をよぎります。
だけどもし。
今後、当事者の一人になるとしたら……。
この映画を観た事が、こちら側とあちら側の分水嶺に立たせてくれるかもしれない。
ぷかりと浮かぶ舟上の2人を眺めながら。
痺れた頭と胸は、疼きが治まる事はありませんでした。