足拭き猫

J005311の足拭き猫のレビュー・感想・評価

J005311(2022年製作の映画)
4.3
撮り方も画面も閉塞感いっぱいで緊張に満ちた93分。そもそも主人公が何処に行きたいのかも分からず、示唆される場面はあるにしても終盤まで目的は明確にはされず、その謎感も相まってつい引き込まれてしまった。
何よりもぼそぼそとしゃべる神崎の伏せた目と生気のない表情が台詞の少ない作品を力強くけん引する。その静に所々突然挿入される激しい動きと山本の鋭い横顔が画面を引き締める。
無口な映像の中で時々機械が発する賑やかな声が不気味。

神崎と山本、対極的に見える彼らはそれぞれの虚無で包まれている。終盤の神崎の山本に対する言葉から、神崎がとっさにそれを察知して彼を「運び屋」に選んだのが理解される。ラストに2人の心の変化が結実し、映画を作るということは、他者との関係性を表現することなのだ、と強く思わされた。

終盤のシーンは圧巻。撮影はさぞかし大変だったろう。
8年来の友人であるという役者2人と、残り2人だけのスタッフで綿密に仕上げた作品。トークでは監督兼出演の河野さんが一生懸命質問に答えていた。撮影秘話も明かされて汗だくになっていたけれども、その様子からとても真面目な方なんだなと感じた。野村さんも本来の自分とは違って感情をためこむ役だったので、相当大変だったようだ。