都部

ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦の都部のレビュー・感想・評価

3.3
本作は迫力大で何より雄弁な火山映像を主としながらも、ドキュメンタリーとしては物静かな作りだ──睡眠導入音声のような静謐な語りと共に語られるクラフト夫妻の研究の日々は興味深いものの、正直鑑賞中はかなり眠かったのだが、一通り見た後で振り返るとドキュメンタリーとしての優秀な点がたしかに散見されて己の安易さを恥じるばかりである。

火山に魅入られた二人の出会いを物事の皮切りに、参照される彼らの手により至近距離から撮影された火山の噴火活動の映像は素晴らしく、人間が比較対象として映像の中に存在しているからこそ自然のその危機的な雄大さがひと目で理解することが出来る。それは映像素材として優秀であることを意味するが、よく考えればここまで近づくことがそもそも珍しく、そこから夫妻の火山に対する偏執的姿勢が垣間見えて、そこに存在する一種の芸術性すらも本作は浮き彫りにしているのだ。それに準じるように詩的で静謐な語りが差し込まれるバランスはほどよく、作品の指向性という意味では恐らくそれが正しいことが分かる。

この狭い世界でその偏執的活動を互いに承認する夫婦の出会いをロマンスであると定義した上で、互いに互いを信頼した距離感が外的な目線から語られるのはさながら恋愛物語のようであり、洒落にならない危険な研究に身を投じる姿は二人の結びつきをより強固なものとしているのは明白だった。面白いのはその研究のみならず、二人のメディアに対する露出の日々も明け透けに語られていることだ。自覚的に奇特な火山学者夫婦としての振る舞いを取っていた彼等にも活動資金が必要であると同時にその危険性を伝えるべくしてペルソナを被っていたことが分かるし、なによりこの話の終着点にある結末を思うとその行動の重大性は分かろうというものである。

かように振り返るとやはり見応えのあるドキュメンタリーであったのは事実で、火山が齎す映像美はそれに執心した夫婦の心境を人生と共に追体験させるような味わいを生んでいて、意義深さと火山の多層的な魅力に迫った作品であると言える。
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